マーラー 交響曲第6番の楽曲解説

④はティンパニの「リズム主題」が先導。「整列、敬礼、捧げ筒!」といった儀式性が強いこのRは、トランペット信号と同様、マーラーが幼時から環境音楽的に親しんでいた軍楽で実際に使われていた音型を、そのまま転用した可能性が強い。

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こうして複数の主題が「第1主題群」を形成した後、コラール風の静かなブリッジ⑤を経て第二主題部に入るが、経過的な部分でも、③aでトロンボーンが強奏していたZを、ピチカートで絡ませるといったように、重層化させるのが、この曲の特徴だ。

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連続小説的な観点から注目されるのが第2主題⑥a。その原型としての交響曲第5番の第4楽章《アダージェット》は、1901年にアルマへのプロポーズに使われた自筆スコアでは⑥b1だったのが、結婚承諾後にアルマによって清書された浄書譜では⑥b2のように旋律線が変えられた。アルマ・シントラーのイニシャルはAとS。Sは「Es=ミ♭」と読むことも可能だが、ここでは「シ」と読んでみる。すると⑥b1から⑥b2への変更によって、上昇音型に「シ=B♭」が組み込まれることになり、アルマのイニシャルが、文字的な引喩として刻みこまれたことになる。

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その延長として〈6番〉の第2主題⑥aを見ると、先ず調性が《アダージェット》と同じヘ長調。古典的な原則なら、イ短調の第1主題の場合、第2主題は平行調のハ長調になる。それをヘ長調にしたのは、〈5番〉での私的な引喩を、調も込みで再現しようとしたからに他なるまい。その「アルマ主題」⑥aを分析してみると、先ず冒頭が「A→B♭」。〈5番〉での変更を再現した「B♭→A」は78小節に現れ、最後の頂点82小節で駄目押し的に fff で刻印される。この第2主題に第1主題のXが含まれているのは愛の成就を示すものであろう。

展開部は、⑦で加わるシロフォンが重要。骨を叩いたような音色から「骸骨=死」の象徴として使われることが多く、ここでも死への修羅場に突入したことが示される。戦闘が激しさを加えた頂点で、舞台裏からカウベルが鳴り響き、平和な牧場のような情景に急転。⑤のコラールが変容されたブリッジを経て⑧が、台風の目に入ったかのような静寂をもたらす。この⑧は前半が第1主題のXの反行形(上下を逆にした形)とX、後半がアルマ主題の反復からなり、愛の巣に戻ったことが示される。

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強引な再召還で英雄は再び戦場に。再現部とコーダは既出主題を組み合わせ、オーケストレーションを強化してスケールの巨きな頂点が築かれる。

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