バルトーク 《中国の不思議な役人》 の楽曲解説

4. 2度目の客引き(鴨は青年)

娘(クラリネット)の媚態はピアノを交えていっそう大胆になる。今度の鴨は内気な青年⑨(オーボエ)だが、ポケットを探るとやはり文無し。それでも娘は踊りに誘うが⑩(ハープを伴奏とするファゴット→フルートのソロ)、青年も男たちに放り出されてしまう。

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5. 3度目の客引き(鴨は中国の役人)

3度目の客引きは、ピアノにハープも加えて一段と挑発的に盛り上がる。それが最高潮に達したところで、不気味な中国の役人が通りの向こうから近づいてくる。遠近法的にpで始まる⑪『中国の役人』(トロンボーン群+テューバ)の主旋律をハ長調に移調すると⑪’のように東洋的な⑫ 5音音階であることが判る。プッチーニの〈トゥーランドット〉、ラヴェルの《パゴダの女王レドロネッド》、マーラーの〈大地の歌〉同様、この時期の西欧の作曲家達は中国や日本の音楽に新たな可能性を見いだそうと5音音階を積極的に採り入れた。⑪’を単旋律で歌ってみると旋律線自体は『童歌』みたいで、むしろ可愛らしいのだが、バルトークの与えた並行3全音の不協和音⑪で聴くと、怪物的な凄味が加わる。以下、トロンボーンは役人の象徴として用いられるが、不気味に咆哮する下降グリッサンドの中、役人は3回繰り返される運命のリズム主題とともに、部屋に入ってくる。

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6. 娘と役人と駆け引き

物陰から、行動を促す男達の指図に従って、恐るおそる誘う娘をピチカートが表わした後、娘は尻込みしながら役人に話しかけ⑬(フルート→クラ→オーボエ)、2人の間で遣り取りが続く(低弦のピチカートが絡む静かなパントマイム)。意を決して踊り始めた娘のワルツ⑭は、次第に煽情的な色合いを帯びてくる。次第にクレッシェンドしていくこの部分は、様々な新出主題にチェレスタも加えてオーケストレーション的な山場を形成。既出の素材としてはトロンボーンの下降グリッサンドの執拗な反復に応えて、意を決したように激しく踊りだす娘が⑤『嫌がる娘』の変容として再現されるあたりが重要だ。4回繰り返されるホルンの上昇グリッサンドの咆哮で、娘は役人の腕に身をあずける。役人は興奮に身震いするが、娘は恐ろしくなり腕を振り切って逃れる。⑪が急テンポで再現。アッチェレランドは役人の興奮を表す。

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7. 娘を追い回す役人

大太鼓を加えた野卑な2拍子に乗った⑮→⑯が、娘を追いかけ廻す役人を描写。役人は、1度つまずいてスピードを弛めるものの(フェルマータによる中断)、直ぐに起き上がって、一段と激しく追い回す。今回はこの狂乱的な舞曲の頂点で組曲版と同じエンデイングに達し、終わりとなる。

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(金子建志)

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