エルガー (1857~1937) 交響曲第1番 変イ長調 作品55

分析

第1楽章 - 序奏部・変イ長調4/4、主部・ニ短調 - 変イ長調 2/2

序奏部は既に述べたとおりで、循環主題①がオルガンを思わせる荘厳なトゥッティに盛り上がる。アレグロ主部は情熱的な第1主題②と穏やかな第2主題③a+③bを両極とした二元的ソナタ形式で、闘争と憧れの狭間を行き来しながら進んだ後、3/2拍子に転じて頂点が築かれる。金管④による咆哮は強圧的な何かが壁のように立ちふさがったようなイメージだ。

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展開部は、ティンパニの〈運命〉のリズムによって戦いの頂点を築いた後、次第にテンポが落ち、ハープを伴奏とする幻想的なエピソード⑤が内省的な世界を導入する。その到達点として管が導く⑥bは重要な意味を持つ。隣接音に下降する動機は、フランクのニ短調交響曲やドビュッシーの〈海〉等にも共通した宗教的な啓示だが、エルガーの場合はオラトリオ《ゲロンティアスの夢》の「聖なる主よ/Sanctus Deus」⑥aの引用。カトリック教徒だったエルガーは、この⑥bを信仰告白のように何度も要所で繰り返す。

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再現部は提示部の戦いが一段と激化し、再び3/2の④に転じるが障壁は更に巨大化し、絶望感が頂点となる。2/2に復帰したコーダで新たなアイデア⑦が導入される。循環主題①を、弦楽器群の一番後ろのプルト(deskは譜面台のこと。つまり各2人で、チェロまで含めると計8人になる)で奏させるのである。最後列に点在する8人に弦楽器群本体とは別の主題を委ねるこのアイデアも、以後何度も登場するが、場所によっては第4楽章のコーダのようにトゥッティのffの強奏に覆われて、実質的には客席から判別できないケースも出てくる。これは、過去からの遠い呼びかけのような“別の次元から”という象徴的な意味合いを持たせたかったからに他なるまい。

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変イ長調のコーダは序奏部①が熱っぽく再現されたあと、⑥bが印象的に反復され、その宗教的意味合いを、より鮮明にする。⑤の回想が④を鎮静化した深淵へと導き、静かに閉じられる。

第2楽章 - 嬰へ短調 1/2

2拍子系のスケルツォ。嬰へ短調のスケルツォ主部(S)は無窮動風の⑧aとマーチ風な⑨からなる。変ロ長調のトリオ(T)は「河辺で耳にするようなイメージ(エルガー)」の⑩a・b、⑪が、風にそよぐ草花といった対照を見せる(伴奏音型が印象的)。「S-T-S-T-S-コーダ」という構成だが、後半になるに従って主題が互いに混ざり合うため、対比は段々と曖昧になる。

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注目すべきは構造的なトリック。⑧aは無窮動として反復される際は16分音符だが、それがコーダでは16分→8分→4分音符と拡大されてエンド・テーマとなるのだ。最後は主音のファ#の静かな持続をブリッジにして、次の楽章に直結する。

第3楽章 - ニ長調 4/8

前楽章のスケルツォ主題の変容である ⑧bと、副主題⑫a・bによる崇高なアダージョ。譜例だけだと判り難いが、コーダで4分音符に拡大されるまでの経緯を注視していると、 ⑧aが何回も脱皮して、より巨大な ⑧bに変容してゆく様子が理解できるはず。副主題の対旋律 ⑫bは、1楽章冒頭における循環主題の伴奏音型から導かれたものである。ブリッジとして3連符を基本にした⑬を挟んだA-B-A-B-コーダという構成だが、⑭に導かれる祈りのようなコーダを聴くと、初演の際、感動した聴衆が終楽章を待たずしてエルガーを舞台に呼び出したのも頷けよう。

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第4楽章 - ニ短調 序奏部4/4、主部2/2 ソナタ形式

神秘的な序奏部の中で重要なのは、ファゴットが導入する主題⑮と、ブラームスの〈悲劇的序曲〉に似た山型のモティーフで、この2つは主部においても主題のペアと優位を競いあう。アレグロ主部の第1主題⑯は付点リズムを特徴とするが、歌謡的な第2主題⑰も同じリズムを含んでいるせいか同属性が強く、曲が進むにつれて、戦闘的な性格が増した⑮と主客が逆転する。特に、展開部の終わりで⑮が拡大されて叙情的に歌われる辺りは、一流のメロディストならではの聴き所。これはロマン的な感情移入を伴った熱烈な讃歌にまで高まる。短い再現部に続くコーダでは、それまで控え目に扱われて来た循環主題①がトゥッティで壮麗な凱歌を奏で、変イ長調の主和音によって輝かしく結ばれる。

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(金子 建志)

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