第4楽章 フィナーレ ハ短調→イ短調 2/2・4/4 序奏部付きのソナタ形式
ソナタ形式の序奏部を拡大し、単純な導入ではなくオペラの序曲のように雄弁な世界を形作るという試みはモーツァルトの〈プラハ〉やベートーヴェンの〈7番〉等が嚆矢だが、多くの場合は第1楽章。それを終楽章にも適用したのがベルリオーズの〈幻想交響曲〉で、〈幻想〉を得意にしていたマーラーは、それを〈復活〉〈5番〉に次いで、この〈6番〉でも採用した。交響曲全体を、ストーリー性を備えた有機体として形作るといのがロマン派のシンフォニストに共通したスタンスであり、それは主題的に第1楽章とフィナーレを結びつける方向に向かう。 もう一つは、ベートーヴェンが〈悲愴〉や〈テンペスト〉の第1楽章で開拓した「性格的に印象付けた序奏部を、主部に入ってからも再現させる」という手法。〈6番〉の第4楽章は、この二つを絡めながら雄弁術を拡大したために全体が、巨大化した。
2/2拍子で始まる序奏は「狙撃を思わせる低弦のピチカートの一撃+霧のように立ち昇るチェレスタとハープの分散和音」を扉とし、第1ヴァイオリンが⑰aで悲劇的な運命を暗示。それに続く⑰bでは、ティンパニが第1楽章のリズム主題Rを再現。トロンボーンとトランペットが開始したイ長調の和音を、ファゴットとフルートがイ短調の sf で受け継ぎ、“明→暗”の和音主題を強調する。4/4に移行した⑱ ⑲は「弔い」を暗示するが、テューバによる3度音程の旋律⑱はフィナーレの中心主題の一つとなる。
ハープやチェレスタによる水墨画のような音色の上に、ホルンの⑳が厳粛な雰囲気を受け継ぐ一方、オーボエやトランペットが発作的な叫び声を上げて静寂を切り裂く。クラリネットやホルンがコラールで厳粛な歩みに戻すが、「リズム主題+和音主題」の原型④が再現されて英雄の運命を確定的に予告した後、進軍へと促すような付点リズムによる㉑によってイ短調の主部㉒に雪崩込む。