〈6番〉では、革命や戦争の象徴としての『運命主題』が重要。そのルーツを説明するには、ナポレオン戦勝利を祝って1813年に初演された〈ウェリントンの勝利〉が分かり易い。そこでは、英仏両軍が左右の軍楽で示されるのだが、英国軍が[E1]の小太鼓と[E2]のトランペットで、フランス軍が[F1][F2]で対峙する。この伝統的な軍楽には『運命主題』が、3連符の形Aで含まれている。これを戦争に対する警告として用いたのがハイドンの〈軍隊〉で、より組織的に用いたのが〈エロイカ〉と〈運命〉だが、後者の影響が最も大きいのは言うまでもあるまい。
もう一つ重要なのは付点リズムBで、〈エロイカ〉の第2楽章、ショパンのピアノ・ソナタ〈第2番〉等、多くの作曲家が『葬送=死』の象徴として用いた。3番目は4音連打のC(『戦闘』としておく)で、これはショスタコーヴィチの〈レニングラード〉の小太鼓が名高い。
『戦争交響曲』としての実像が露わになる第1楽章の展開部では、①のようにA + Cのセットになって反復され、凄絶な修羅場を形作る。
それ以前に重要なのが序奏。僅か10小節の中に、C『戦闘 → A『運命 → B『葬送』 が連続的に示されるからだ。リズム主題が聞き取れなくても、絶対命令の恐怖は感じ取れるはず。第1主題や第2主題は、それによって戦場に駆り出された人々の嘆きに他なるまい。
第3楽章のコーダでは “戦争→勝利” 型交響曲の定型どおり、Aを反復した後、②のように勝利を刻印して終わるだが、戦勝を壮大に祝うべきフィナーレを、ショスタコーヴィチの〈9番〉(45年初演)以上にコミカルに描いたのが、スターリン体制の逆鱗に触れたのは確かであろう。
この曲でもう一つ重要なのは『時』の概念。プロコフィエフは時計の振り子を思わせる描写を好むが、それは第1楽章の第3主題③の伴奏音型(中段)として反復される。『時』が、個人の思惑とは無関係に、非情な絶対値として君臨する様を、プロコフィエフは〈シンデラ〉の真夜中の時報として描いた。第2楽章の中間部④では、それが『恐怖の振り子』として再現された形だ。
(金子建志)