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Ⅲ・ぽだい樹の下で アダージョ・ソステヌート 変ロ長調 4/4
夕方6時の鐘が鳴り、恋人達が菩提樹の下で愛を囁き合う。夕べの風を思わせるヴァイオリンの16分音符を背景にした、チェロとクラの二重奏 ⑧。オペラでの愛の二重唱を彷彿とさせる長大なデュオで、後のオペラでの大成功を予感させずにはおかない。
Ⅳ・日曜の夕方 アレグロ・モデラート 二長調 3/4
活気に溢れる夕方の広場、人々は3拍子の民俗舞曲⑨で盛り上がる。トロンボーンによる威勢の良い掛け声⑩、オーボエ+クラによるお囃子⑪は、共に「アルザス民謡」と記されている。
小太鼓のトレモロで、踊りは中断。鐘が8時を告げ、変ロ長調 2/4 のマーチでフランス軍の帰営が始まる。ラッパと太鼓の先導で行進してきた部隊は、広場を通り過ぎ、遠ざかってゆく。
ヴィオラのソロ⑬が愛の二重奏⑧を回想した後、遠方から再び帰営ラッパが聞こえるが、ヴァイオリンが開放の重弦で荒々しく介入。普通と違ってⅡ・酒場の舞曲⑤に戻り、クラによる③bも加えて一段と盛り上がる。最後は、この楽章冒頭の⑨が再現、掛け声⑩が勢いをつけた後、一気にストレットして終わる。
中間部の帰営ラッパの場面、マスネは敢えてスコアに「フランス軍」と印刷させているが、ドーデが原作の「月曜物語」を書いた頃のアルザスはドイツに占領されていた。フランス語禁止令開始の日を少年からの視線で捉えた「最後の授業」に描かれているとおりで、フランス軍の行進は、当時の現実としてはありえない。後述する〈アルプス交響曲〉のバンダと同様、ここでもタイムスリップ的な構造が隠されていることを指摘しておきたい。
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