物語と音楽
(小倉重夫著『ディアギレフ』より抄訳)
導入部と第1場 魔王カスチェイによる魔法のかかった庭
序奏(1)に続いて幕が開くと、舞台は魔法使いが棲むという不気味な森。夜の暗闇の中に一本の樹がこはく色の光(2)を浴びて立っているのが見えてくる。枝々には一杯に黄金のリンゴが実っている(3)。大きな門と続く石段、遠景に城が見える。(4)は魔法を象徴する主題として重要だが、同時にファゴット群(コントラ・ファゴット2本を含む)が、楽器としても魔界を象徴することになる。
火の鳥の出現と、これを追うイワン・ザレヴィッチの登場
突然、一羽の不思議な鳥(5)が飛び去った後、弓を手に王子イワン(6a)が登場。リンゴの樹を眺めていると、先ほどの鳥が戻ってくる。伝説の霊鳥、火の鳥だ。全曲を通じて、王子はホルンと、火の鳥はフルートと連動している。
王子は矢を放つが、外れ、火の鳥は森の奥へ逃げて行ってしまう。王子は樹陰に隠れ、再び火の鳥が現われるのを待つ(6b)。
火の鳥の踊り。王子は火の鳥を捕らえる
すぐに火の鳥は戻って来て、黄金のリンゴをついばむかのように飛び回る(7)。固唾を呑んで(8)見守っていた王子は、樹陰から飛出し、火の鳥が地上におりたところを捉えてしまう。逃げようとする火の鳥、逃がすまいとする王子を、音楽が描写する。
火の鳥の嘆願
捉えられた火の鳥は「解放してくれたらお礼をします」と言い(9)、体から黄金の羽根を一本抜いて王子に渡し、その代わり放してくれと懇願する (10)。王子は申し出を承諾。火の鳥は「その羽根を危急の際に災難除けのお護りにするように」と言い残して、森の中へ飛び去る。
魔法にかけられた13人の王女達が出現
月の光の中、城の門が開いて13人の乙女(11)が出てくる。白のガウンが高貴な身分を感じさせるはするものの、幽霊のような感じがする乙女達を、王子は樹陰に身をひそめて見守る。フルートによるカデンツァ(12)は、ひときわ美しい王女を表す。
黄金のリンゴで戯れる王女達
乙女達は中央のリンゴの樹を揺すり、輝きながら落ちる黄金のリンゴを追いかけ、投げ合って踊る(13)。王子は仲間に加わりたくなり、姿を現わす。