ワーグナー〈トリスタンとイゾルデ〉 第Ⅰ幕・第Ⅲ幕の前奏曲と《愛の死》の楽曲解説

第Ⅲ幕の前奏曲

瀕死の深手を負いながら、カレオールの古城で、イゾルデとの再会だけを夢にみながら待つトリスタン。重厚な弦による⑤と、管を絡めた⑥の交替からなる。半音上昇による焦がれ①aは記号としても重要だ。

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今回のコンサート、当初は「第Ⅰ幕の前奏曲と《愛の死》」という一般的な組み合わせの予定だったのだが、練習を始めてみたところ、どうも表現が淡白過ぎるように思えた。アマオケに限らず我が国の器楽奏者は、交響曲や管弦楽曲から音楽に入るので、指示が少ないオペラのスコアだと、薄味な演奏になり易い。実はワーグナーのスコアもその典型。例えば②の後半の3小節にまたがったスラーは、演奏の段階で弓使いを工夫しないと音楽にならない。⑤も同様で、後期ロマン派ならではの息の長いカンタービレを習得してもらう良い機会にもなると考え、追加することにした。

もう一つはXがマーラーの〈5番〉の《アダージェット》の原曲ではないか?という視座。これについてはマーラーの解説で述べる。

イゾルデの《愛の死》

⑦に乗ってイゾルデが「穏やかに、静かに、彼が微笑み、目を優しく開けているのが、あなた方には見えないのですか?」と歌い始める。

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内容的には、イタリアで当時頂点を極めていたベルカント・オペラに於ける“狂乱の場”に通じるのだが、ワーグナーはコロラトゥーラ的な技巧の見せ場にはせず、長大なうねりと母性的な光りの中に、包みこもうとする。

そのためイゾルデの歌唱以上にオケ・パートが雄弁に書かれているので、今回のような歌抜きの《愛の死》も一般化しているのだが、実際に演奏してみると、歌の抜けた空白の大きさを実感させられる。

例えば、憧れ①bと⑦を重ねた⑧や、ワーグナーが真実の愛を表す時に記号として用いる⑨ターン(刺繍音)といった重要な音型が、埋もれてしまうのだ。セッション録音のようにマイクで拾えればオリジナルのままでも、それらしく聴こえるのだが、今回は、歌唱パートを、部分的に木管や弦で補充している。

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イゾルデの絶唱は、⑨aを波のように繰り返しながら第Ⅱ幕の愛の二重唱を再現してゆくが、今度はメロートに踏み込まれる修羅場で遮られることもなく、拡大型⑨bの法悦に到達。最後は①aのオーボエが嬰ニに達したところで、第3音を保持しながらロ長調の和音の中に結ばれる。

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