日程:2015年8月2日(日)13時30分開演(12:45開場)
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千葉フィル、マーラー6番「クビーク版」に最終回答?
これは、ちょっとした事件だ ― 千葉フィルの次回の演目がマーラーの6番だと知った時、そう思った。なにせクビーク新校訂版の譜面を使うというのだから。
現在、マーラーの演奏では、種々の資料を検証した校訂版である国際マーラー協会による楽譜が多く使われている。2010年、クビークを校訂者とした交響曲第6番のスコアが新しく出版されたが、これはひときわ大きな注目を浴びることとなった。従来のものから、第2楽章スケルツォと第3楽章アンダンテの順番が入れ替わったのだ。クビーク新校訂版では、第2楽章がアンダンテで第3楽章がスケルツォとなっている。
生前のマーラーもこの中間楽章の順番には頭を悩ましていて、どれがマーラーの最終意思かということには様々な見解がある。クビークの見解も本来はそういった中の一つであろう。しかし、国際マーラー協会というお墨付きのせいか、ただの新し物好きなのか、最近ではクビークの配列による演奏が多く聴かれるようになった。新しい譜面を使った演奏の中には、演奏の内容の薄さを譜面の新しさでカバーするかのようなものが、残念ながらないわけではない。オーケストラ演奏の現場においても、新しいことに意義があるといった風潮はそう珍しいことではない。しかし、譜面の新しさであったり、ましてや楽章の順番で演奏の価値が語られるのは、よくよく考えると不思議な話である。その一方、新しい譜面を使ったこのクビークの配列通りでの演奏で、優れた成果を上げたものもまた確実に増えてきている。問題は、どの譜面を使うかではない。何を考えてその譜面を使うか、そしてその譜面の何を選択するか、だ。結局問われるのは、譜面に対するスタンスではなく、音楽そのものに対するスタンスなのである。クビーク新校訂版が出版されてから5年、事態はようやく本来あるべきところに立ち戻りつつあるように思える。
そうした中での、千葉フィルによるマーラーの交響曲第6番である。指揮は金子建志。千葉フィルの創立以来すべての演奏会のタクトをとる金子は、マーラーの研究家としても名高い。様々な版の譜面を読み込み、数多くの演奏を聴いてきた金子が、クビーク校訂版を使いつつも中間楽章をどう配置するのか。クビークはこの中間楽章の配列の正当性を強く主張している。しかし、その主張をそのまま受け入れて良いのか、そこには問題は無いのか。綿密な楽譜分析と強い意志に基づく金子建志の指揮による今回の演奏は、その中間楽章の順番がどちらであれ、クビークに対する一つの回答となる筈である。
そして、ワーグナー。マーラーはワーグナーから強い影響を受け、そして金子建志もワーグナーに強い思い入れを持っている。マーラーの交響曲と同時に演奏するのに、これほど相応しい作曲家もそういない。今回は《パルジファル》から第一幕への前奏曲を演奏する。《パルジファル》はワーグナー最後の舞台作品であり、ワーグナー音楽の精髄と言われることもある。千葉フィルが誇る金管楽器による重厚なコラールが今から待ち遠しい。
ワーグナーとマーラー、暑い夏に聞くとびきり重量級の音楽は、きっとこの夏の忘れられない音楽体験となるであろう。