レスピーギ (1879~1936) 地の精のバラード

respighi-thumbこの曲、スコアに掲載されたクラウセッティの怪奇趣味的な詩と、レスピーギが付けた音楽の間に大きな開きがあるので、そのあたりを念頭に、お読み頂きたい。

登場人物は全員が「地の精=グノムス=Gnomidi」で、主役は「若い2人の女の精」と「共通の夫である1人の男の精」。スコアは切れ目なく繋がっているが、ほぼ4部に分けられるので、それに従って詩と音楽の関係を分析してみる(詩は、大植=ミネソタ管盤の天露夫氏の訳詩を、適宜に編集させて頂いた)。

Ⅰ・「泣き喚く男を引きずって女の精たちが走って行く。男の精は二人の花嫁の間で無駄な抵抗をしている。三人の精を待つ初夜のベッド。」

曲は、嵐のようなサルタレロ風の (8) の反復で始まり、トランペットが、男性的な中心主題 (9) で先導する。ホルンとチェロによる嘆くような (10) と、鋭い歯で切り刻むような (11) が煽り立てる中、2人の女性を表す (12) が、クラリネット属のペアで提示される。

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クレッシェンドを (9) が威圧的に刻印した後、静まる際にも⑫が反復されて、この2つが中心主題であることが示される。注目すべきは⑫が最後にコントラ・ファゴットに受け継がれて、妖怪的な正体を現すこと。グロテスクな音色効果は、管弦楽法の名手ならでは。

Ⅱ・「不気味な婚礼に灯りは点されない。外では、地の精の群れが餌食を待っている」

木管の甲高い下降アルペジョ (13) は2人の女、シンコペーション・リズムによる応答⑭は男。それに続く(15) (16) は、原詩には不似合いなほど美しい愛の場面で、前作〈ローマの泉〉の最も叙情的な響きを、更に耽美的に磨き上げた感がある。

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「真夜中に鋭い叫び声が拳がる。夜を打ち破るほどの痛み。そして静寂が訪れ、新しい夜明けを迎える。」

(17) のスケルツァンドで急転するが、ここはまだ平穏。両ヴァイオリンの高音グッリッサンドの掛け合いは、2人の女の戯れか。曲想が元の静けさに戻った後、(9) を静かに繰り返し、寝静まった男を表す。

その直後の鋭利なトゥッティの咆哮は、殺害と絶叫。

Ⅲ・「妻たちが、奥部屋から息途絶えた男の死体を引きずりだして走り、その後に続く狡猜な群れからは、地獄の奥底からのような冒涜的な言葉が聞こえる。

到着した広々とした丘の絶壁からは青い海が眺められる。汚物に塗れた夫は崖の斜面から一瞬のうちに落ちていき、儀式は終わる。」

12/8拍子のこの部分は《葬送行進曲》と題されている。ティンパニの先導する (18) が荘重な歩みを確定し、殺害された男 (9) の主題がクレッシェンドしていく。このヒロイックで荘厳な盛り上がりは、原詩とは完全にかけ離れている。

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Ⅳ・「夜が明けると、丘の上では朝のそよ風を受けながら二人の女の精が踊りはじめ、多くの精が邪悪な寡婦たちの踊りに加わる。金切り声を拳げ、嘲り、噛みつき、大声で笑う。魔女集会のように、全員が荒れ狂いながら。」

(19) のアレグロで曲想は急転。詩だと、死骸として海に投げ捨てられた男は消えたままだが、レスピーギはティンパニの強打で (9) を再登場させる。しかも女は木管の高音域を中心にした妖艶な (20) で、サロメさながらに踊り(バラードは、本来、ダンス=踊りと同義語)、天の岩戸の前の女神よろしく、低音部の男 (9) を誘惑し続けるのだ。

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この舞曲はタランテラ風の (21) で更に盛り上がり、女 (12) も本来の清楚な姿で再現される。このあたりはベルリオーズが〈幻想交響曲〉の終楽章で「魔女の宴=サバット」の情景として、死せる恋人のイデー・フィクスを甦らせ、異様な明るさの中で頂点を築いたのに似た構成だが、最後に詩から離れ、既出主題を統合してシンフォニックな頂点を築きたかった、と見てもよいだろう。

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