1808年12月22日、ベートーヴェンの指揮で〈運命〉と同日、ウィーンで初演。
音楽と全く無縁だった私が、初めて惹かれたのがこの〈田園〉。中学1年の春、音楽の授業で〈グランド・キャニオン〉と続けて「感想を言いなさい」ということだった。たぶん標題音楽の比較だったのだろう。私の心にはベートーヴェンが深く残り、夏休み後に引っ越した習志野2中の吹奏楽クラブで、音楽に深入りすることになった。家の周囲は畑や田んぼに囲まれており、レコードで聴いた〈田園〉を口ずさみながら、夕焼けを眺めていたものである。
第1楽章 「田園に着いた時の愉しい気分」ヘ長調 2/4拍子 ソナタ形式
その20年後ぐらいに訪れたのが、〈田園〉を作曲したとされるウィーン郊外のハイリゲンシュタット。日本で一般的な田園風景とは全く違い、小川も「畦道」ではなく、森の中を流れていた。
麦畑やぶどう園は稲作文化とは違うのに、第1楽章は、あたかも枡目に区分けされた稲田を歩いているように感じる。それは4小節のパターンを区画整理のように繰り返すからで、両ヴァイオリンのステレオ的掛け合いもベートーヴェンの9曲中、最も視覚的だ。
簡素な第1主題①は、1小節ずつに分類できるが、2小節目は、楽章中、この後、4小節周期で何回も繰り返される。第2主題②も同様で、楽器を変えて4小節のリレーを行い、景色を眺めるように何度か立ち止まる。
この楽章で重要なのは木管楽器の活躍。ベートーヴェンは管楽器のための協奏曲を書かなかったのだが、この楽章と続く第2楽章は「木管楽器のための協奏曲」と言っても過言でないほど活躍する。この楽章で素晴らしいのはコーダ。オスティナート化した主題の繰り返しが、自然への感謝として広がってゆく。
第2楽章 「小川のほとり」変ロ長調 12/8拍子 ソナタ形式
この楽章も木管と、弱音器付きの弦がメイン。第2ヴァイオリン以下が繰替す緩やかな流れを、パートから独立した2人のチェロが先導する。第1ヴァイオリンの歌う主題③は息が長く、第2主題④も同様で、その同質性が楽章全体を特徴づける。
この楽章も、何度か「立ち止まり」を繰り返すが、その際に2拍子系のヘミオラを効果的に使用。新たに開けた景色を、分散和音のリレーや囀りが彩る。コーダは、ビーバー、テレマン、ダカン等、バロック時代から継承されてきた野鳥の主役達の共演。夜鳴き鴬(フルート)、ウズラ(オーボエ)、カッコウ(クラリネット)が、啼き較べを2回繰り返し、静かに閉じられる。
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