テンポがアレグロに速まり、ヴァイオリンによって示される⑤がこの交響詩全体の中心主題。ジ-クフリ-トだとゲルマンの印象が強すぎるから、クレルボとしておこう。②のaから導かれた⑤は「若きクレルボ」。⑤を付点リズム化し、より行動的にした⑥はヴィオラを中心にソロも含めて様々な形で再現されるので「旅に出て成長するクレルボ」のイメージがある。
これに繋がる⑦は、彼を追う恋人で、例えば宮本武蔵の「おつう」のように⑥に絡みあいながら進む。⑧は「闘うクレルボ」で、やがて金管による力強い吹奏に発展し頂点を築く。
この間で副次的な主題として重要なのが⑨。戦いの悲劇的な結末を暗示する⑨の後半bは鳥の囀りのイメージが付加されている。
こうした主題の交錯が一旦静まったところで、弦がスルポンティチェロでかなり長い間、不気味な金属音を響かせる。この暗雲はやがて強大な敵へと拡大。クレルボ達は⑧に⑨を重ねた⑨'で、敢然と戦いに挑む。
一旦、戦禍が静まった際に弦によって示される⑩の前半はバロック時代から「嘆き」や「悲劇」の象徴として記号的に使われてきた半音下降。これをポリリズム的に絡めた後半Cは、前衛的な試みだ。
既出主題を総動員した決戦は⑪で修羅場を迎え、シンバルの一撃が英雄が殺されたことを暗示。この⑪は2拍子に侵入して破壊的な力を発揮する3連符と、2拍子の半音下降⑩が悲劇的結末を刻印する。
この後オーボエの吹く⑧のdから、追悼な祈りへと沈潜してゆき、再び登場した吟遊詩人④が、悲哀を籠めて、ことの顛末を回想する。④を中心とする長大なクラリネット・ソロは最後の聴き所。フィンランドではオーディションの時に吹かせる課題曲の一つとのこと。これをチェロが⑥のaで静謐に受け継ぎ、英雄と民族の悲劇を悼むように結ばれる。 筆者は、この交響詩を交響曲第2番の第2楽章の源泉と捉えている。楽章全体が葬送の音楽のように書かれているその第2楽章では《ジ-クフリ-トの葬送行進曲》の追悼の場面が、そのまま引用されるからだ。
(金子建志)
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