ベートーヴェン《レオノーレ》序曲第3番の楽曲解説

beethoven jm 120pxベートーヴェンは、唯一のオペラ〈フィデリオ〉のために、〈レオノーレ序曲〉とされる3曲と、全く別のプランによって最後に作曲された〈フィデリオ〉序曲の4曲を作曲した。その中で最も規模の大きなのが、この〈3番〉。物語全体を交響詩的に圧縮しているという点はゲーテの戯曲に付曲した〈エグモント〉の序曲と同じで「序奏部→アレグロ主部→快速のコーダ」という構成も共通だが、〈エグモント〉がへ短調→ヘ長調という、『運命型』の短調→長調という『暗→明』の図式によっているのに対し、レオノーレ〈3番〉は、ハ長調で一貫している。

〈フィデリオ〉の物語は以下のとおり。

冤罪で投獄された政治犯を、妻が救う救出劇である。自らの罪の発覚を恐れた典獄ピツァロは、告発者たる友人フロレスタンを牢獄の地下に幽閉。投獄されたフロレスタンを救うべく、その妻レオノーレは、男装しフィデリオと名乗って、監獄に先入。大臣フェルナンドによる査察の情報を入手したピツァロは、事前にフロレスタン殺害を諮ろうとして地下に下りるが、墓堀りに地下牢に下りていたフィデリオが、妻と名乗って立ちはだかる。その瞬間、地上から大臣到着を告げるラッパが鳴り、ピツァロの悪計は失敗。地下に幽閉されていた政治犯達もフロレスタンと共に釈放される。

序奏部(アダージョ 3/4 ハ長調)。冒頭①のトゥッティの一撃は、普通だと主和音、若しくは主音=C(ド)になるはずだが、属音=G(ソ)のユニゾン。ピツァロによる威圧的で空疎な支配を象徴しているからだ。①の5小節~のファゴットは、和音の変化だけで囚人の願いを象徴。

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それに続いてクラリネットが奏する旋律は、第Ⅱ幕の地下牢の場面で、幽閉されているフロレスタンが「人の世の美しき春にも」と自由な生活への憧れを歌うアリア②の冒頭。〈レオノーレ〉と題された3つの序曲全てに、このアリアを引用していることから、ベートーヴェンの理念が読み取れる。ヴァイオリンによる激しい音階の上下動③は、終景の開放を暗示。こうした劇的変化に富んだ序奏部の間、ハ長調の主和音は現れず、属和音=属調(ト長調)に終始する。

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