ベートーヴェン《レオノーレ》序曲第3番の楽曲解説

主部(アレグロ 2/2 ハ長調)。ソナタ形式によっており、ヴァイオリンによる④aが第1主題。第2主題⑤は複数の楽器による主題群として提示される。どちらも陰りは無く、冤罪によって陥れられる前のフロレスタンが過ごしていた、平穏な日々を思わせる。

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木管によって繰り返される⑥も含め、デュナミークの変化や、細かな抑揚(クレッシェンド、ディミヌエンド)が殆ど書かれていないのは、ロマン派への移行期ゆえの書法上の盲点。例えば⑤の最上段のホルンは、冒頭に単音を強調するrfがあるが、これをそのまま演奏すると「ミ-レ-ド」のように「ミ」だけが突出することになる。この曲には、こうした書法上の問題が多いのだが、今回はフレーズ全体を強奏させる。

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④aのフーガ的な掛け合いと並んで重要なのは④aの後半を短調化した④b。このロ短調の陰りは、夫妻を襲った暗雲を暗示。これに対する光として再現部を導くのがトランペットによるファンファーレ⑦。代官の到着を告げるこの⑦は、劇中同様、舞台裏から2回繰り返される。

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後半で最大の山場となる下降音階⑧aは、第1ヴァイオリン→第2Vn→ヴィオラ→低弦、と逆落とし的に拡大してコーダ(プレスト 2/2)に突入する。この⑧a、最新版では冒頭の音が、従来版⑧bのドからレに修正されているが、「2~3人で」という冒頭の指示はそのままだ(第2 Vnも同じ)。後続するヴィオラと低弦に、少人数に絞る指示が無いのは奇妙。指定どおりにやると、小人数で弾き続けるヴァイオリンに対し、ヴィオラと低弦が全員で入ってくるから、低音の肥大したアンバランスが生じる。

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途中からヴァイオリンの人数を増やしてトゥッティにするという手もあるが、6音周期から7音周期に拡大していく前衛的な音列の途中から加わると、崩壊を招きかねない。そのため今回は「冒頭から全員で始め、音量を拡大していく」という伝統的な解釈を選択した。コントラバスが3人ぐらいの小歌劇場のピットならともかく、8人が普通のモダンオケの場合、これが最良の方法だろう。

コーダは第1主題④aが快速で突進し、ホルン⑨が凱歌をあげる。このコーダの高揚は〈第九〉の「神々の火花」を先取りしており、ベートーヴェンの理想主義の強靱さを眩いばかりに見せつける。

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