第1楽章 ニ長調
チェロとホルン、ハープによって静寂から浮かび上がってくる断片的な序奏の後に主部に入るが、その最初、第2ヴァイオリンによって奏でられる息のような音型は、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第26番《告別》で示された告別主題。マーラーはこの音型を、前作《大地の歌》の最終場面において「ewigh(永遠に)」という言葉を添えて使用している。この音型を全曲冒頭で使用することにより、マーラーはこの曲の性格を明確に定義づけていると言えるだろう、曲はソナタ形式によって、しかし複雑に進み、また冒頭のような静寂に戻っていく。
第2楽章 ハ長調
スケルツォ楽章に該当するが、スケルツォ部分はどこかのどかな、ひなびた味わい。反面、中間部のワルツ部分は早いテンポで力強く進む。コーダはオーストリアの舞曲、レントラー舞曲。唐突なテンポ変化はいかにもマーラーらしいし、どこか異世界への憧憬が感じられるのも、マーラーらしいというべきか。
第3楽章 ロンド ブルレスケ イ短調
テンポも速く、エネルギッシュに一気呵成に進む音楽。ブルレスケはバーレスク、道化芝居のこと。冒頭のトランペットに続く音型は、交響曲第1番第3楽章のコントラバスのソロによる民謡の圧縮で、マーラーはここにおいて素朴な世界を皮肉で置き換えようとする。途中、音楽は穏やかなものとなり、マーラーが何度も夢見た楽園(エリジウム)が登場するが、道化芝居に取って代わられ、暴力的な突進の果てにこの楽章は終わる。そのヴァイオリン協奏曲第1番の第4楽章「ブルレスケ」において、世界を皮肉で置き換え、マーラーの後継者となることを選んだのが、ショスタコーヴィチであった。
第4楽章 アダージョ 変ニ長調
ゆっくりなテンポで奏でられる哀切の音楽。途中、音楽は劇的に盛り上がり頂点を築く。頂点の後は、なだらかに音楽は下降していき、音楽は静寂の中に消えていく。
チャイコフスキーが《悲愴》で表現した悲劇の表象としての交響曲という形式を、マーラーはもっと大掛かりな形で再現する。これにより、交響曲のみならずクラシック音楽の表現領域は飛躍的に拡大することとなる。ベルク《ヴォツェック》の悲劇も、ショスタコーヴィチの交響曲の孤独も、マーラーなしにはあり得なかった。
マーラーの到達点であり、新たな世界の道筋ともなる作品である。