第1部─ヘ長調 2/2 ソナタ形式
第1主題として単一の動機だけを提示する典型が〈運命〉だとするなら、ニールセンが採ったのは、複数の動機を主題群として提示する正反対の方法。①②③の順に提示される第1主題群は何れも明朗で、力強さに溢れている。様々な生き物が、それぞれの個性を主張しながら自由活発に飛び跳ねているような主題群の在りかたこそは、自然界本来の姿であり、『何者も滅ぼし去ることのできない不可侵の理想郷』として、最初に示したということだろう。
ここで注目すべきは①の中段のティンパニ。冒頭からティンパニが存在感を示す交響曲はハイドンの103番〈太鼓連打〉、ブラームスの〈1番〉等があるが、①で重要なのはティンパニが全く単独でリズムを刻印すること。これは曲全体に亙って、ティンパニが中心的な先導役を担うのを予告している。
このアレグロ主部が、変拍子的なリズムを含む④(フルート→クラリネット)を経て静まった後、クラリネットによって第2主題⑤(イ長調・3/2拍子)が提示される。この⑤によって牧歌的な情景がしばらく続いた後、突然ffで2/2のアレグロ主部が再現される。ニールセンはこの不意打ち的な乗り換えで、マーラー(1860~1911)やアイヴズ(1874~1954)と共により前衛的な道を切り拓いていく。
再び3/2に戻ってコラール風の音楽となり⑥が雄大な頂点を築くが、Xで示した3度順次下降の音程が、交響曲全体の中心主題。これが第4部で再現されることで交響曲としての有機性が確保されることになる。
展開部へのブリッジ⑦はティンパニにサラバンドのリズムが含まれていることがポイント。更にフルートとホルンが、そのリズムから導き出された音型(①のYとも関係)で、鳥の囀りと牛のような不規則な掛け合いを続けるのも面白い。