第3部 (嬰ハ短調)4/4
第2部までだったら「大自然の讃歌」「田園交響曲」といった標題で収まりそうだった明朗な曲想が、「長く(延ばして)」と書かれたヴァイオリンのアウフタクトから、突如、暗転。主題⑬はレチタティーヴォを思わせる嘆きのモノローグで、ティンパニが戦禍の衝撃を「現実を見よ!」とばかりに刻印する。長大なエレジーがヴィオラ+チェロに受け継がれて静まると、弦が祈るような⑭で中間部を導く。⑭では木管の下降動機も重要だ。
この平和への祈りは、木管による強圧的な⑮の介入で突如破られる。⑮は、中心音を延々と繰り返す祈祷のような性格が特徴で、呪文を唱える光景が思い浮かぶ。レスピーギが〈ローマの松〉等で使用することになる初期キリスト教の聖歌を思わせるのだが、楽器が重なるに従って暗黒面に引きずり込むような威圧感が強まっていく。⑮の冒頭に含まれている「運命」主題が、連動しながら威嚇的に変貌していくあたりも暗示的だ。
これが静まって⑭と⑬が短く反復された後、オーボエが⑮をppで回想するが、そこにヴァイオリンによる無窮動風の⑯aがffで介入する。
静謐に終るかと思われたアダージョ楽章を、プレストの暴風雨が急襲する先例にはシベリウスの〈2番〉があるが、ニールセンは、それを第4部=フィナーレへのブリッジにした。低弦まで加わるこの32分音符の嵐で注目すべきは、最後にピリオド的な強打で参入するティンパニ⑯b。これが2番奏者というのが仕掛けとしては重要で、客席からも別の方角からの打撃によって、新たな何かが始まることが印象づけられる。
第4部 ホ長調 3/4
冒頭の7小節の導入⑰aは、第1部の第1主題群の3度下降音型Xの再現で、それに続く第1主題⑰bは力強い凱歌を思わせる。⑰a=X等が畳みかけ、低弦に始まる⑱のフガートが新たな竜巻を起こす戦闘的な音楽を、2人のティンパニによるfffの応酬が、一段と激しい修羅場に追い込んでいく。ティンパニの掛け合いだけでも大変なのに、既出主題が目ま苦しく乱れ飛ぶため、凄絶の極みだが、最後が凱歌風に高揚することもあって、『第3部の悲劇をもたらした者に対する不屈の闘い』という性格が感じ取れる。
中間部はオーボエによる⑳に始まり、戦いは一旦収まっていく。それを第1主題⑰bのカノンが受け継いだ後、台風の目に入ったかのような静寂が訪れるが、「ティンパニ+コントラ・ファゴット」という怪奇な音色が⑰bを導き、ティンパニ2人による再対決(21)へと雪崩込む。
(21)の前半は第2ティンパニが叩いた音型を第1が模倣するというパターンだが、後半は第1→第2に逆転。これにオケがシンコペーション的に絡むため、前半部よりも更に難関となるが、この障壁を乗り越えた後は、第1部の第2主題⑤が高らかに反復される山頂が開ける。第1部の凱歌を、更に雄大なスケールに拡大したこの最後の高揚を締め括るのが、勝鬨の狼煙をあげて参入した第2ティンパニ、というのも周到に考え抜かれた結末だ。
(金子建志)