コープランド 交響曲第3番の楽曲解説

copland02 thumb〈新世界〉で書いたように、ドヴォルザークは5音音階や逆付点リズムで民族性を強調しようとした。これが難しいのは、例えば5音音階だと、黒鍵を適当に叩けば、誰にでも聴き易い旋律が簡単にできてしまうこと。純粋な5音音階には〈メダカの学校〉や〈猫ふんじゃった〉があるが、ああした旋律だけを並べると、親しみ易くても交響曲としては幼稚な印象を与えかねない。

アメリカ独立124年後の1900年に生れたコープランドにとっても、母国に、いまだ独自性を誇れるような交響曲が少ない状況は同じ。しかも第2次大戦下の1943年、愛国的な時代環境を無視するわけにはいかない。そうした状況を見直してこの〈3番〉を聴くと、時代を反映し、生れるべくして生れた交響曲だと判る。

「使い古された表現だが、音楽そのものに語ってもらうことを望みたい」「ジャズや民謡も一切引用しておらず、それらに類似した響きがあったとしても、無意識的になされたもの」という守秘的発言はともかく、以下は従来の解説を基本に纏めてみた。

Ⅰ楽章 ホ長調 4/4

序奏部付きのソナタ形式を基礎にした、A-B-Aのアーチ構造。ドヴォルザークの5音音階に代わる新しさの誇示は、ユニゾン・5度・4度の跳躍や並進行。3音からなる和音から中間音の第3音を抜き(例えば[ド・ミ・ソ]からミを抜いて[ド・ソ]にすると)空疎になるかわり、長調・短調の縛りがなくなり、剥き出しの原石のような荒々しさが生れる。冒頭で3分割された第1ヴァイオリンによって奏される第1主題①はその典型。守旧派なら、和音や、3度や6度で連動する声部を書くところだ。オーボエ+ヴィオラで静かに呈示される第2主題②は、①から5度の跳躍を引き継いだ変奏。

c3 01

c3 02

第3主題③aはアレグロ主部でトロンボーンが勇壮に吹く。これを弦が弾くときは、③bのようにフレーズ冒頭を刻むことで、アクセント的な縁取りがされる。この刻みによる『エッジ強調の4音連打』は、他楽章でもリズム主題として多用され、コープランドのサイン代わりになっている。

c3 03a

c3 03b

もう一つの特徴はテンポの変化がメトロノームで細かく指定されていること。例えばアレグロ主部は4分音符=92→108にアップすることで高揚感が高まる。中央とコーダ近くで大きく減速し壮大な頂点が築かれるが、ピアノや鉄琴が③bを16分音符で強打する鉄工所的な大音響の後、ホルンがⅣ楽章の〈市民のためのファンファーレ〉⑭の冒頭を予告する。

タグ: コープランド

関連記事