セザール・フランク(1822~1890) 交響曲 ニ短調

第1楽章 ニ短調 序奏部4/4 主部2/2 ソナタ形式

序奏部冒頭の第1主題②aが全曲を統一する循環主題。②aは序奏部で神秘的に示された後、アレグロ主部の冒頭では闘争的な《運命の動機》(ロパルツの分析による、以下の名称もほぼそれに準じている)としての性格を露わにする。これはバッハが自らの名前『B・A・C・H』を音名として主題化した②bに遡ることが出来るが、音程的により近い音型として〈平均律クラヴィア曲集〉第1巻のフーガ第4番②cを挙げておく。②cのフーガ第4番は嬰ハ短調だが、バッハの多くの短調のフーガと同様、コーダ②c'では(嬰ハ)長調に転じる。時代が近い前例としては1854年に初演されたリストの交響詩〈前奏曲〉があるが、リストが『B・A・C・H』の主題による曲を書いていること、『人生を死への前奏曲』として描く交響詩〈前奏曲〉が、最後は長調に転じて死後の救いを暗示して結ばれることを指摘しておくべきだろう。この②aに関連した主題群が『原罪』を象徴し、フランクが先人達と同じく、それが宗教的な救済に至る道筋を描こうとしたのは明らかだ。そこにはベルリオーズが〈幻想交響曲〉で開拓したイデー・フィクス(固定観念)による循環形式と、ワーグナー的な指導動機の手法が、巧みに織り込まれている。

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普通と違い、この緩→急、序奏→主部という操作が、最初ニ短調、2度目がへ短調と調を変えて、仕切り直し的に繰り返される二段構造は新機軸。これに、祈るような副次主題《希望の動機》③と、肯定的で力強い第2主題《信仰の動機》④が絡んで、真摯な自問自答の世界が繰り広げられる。

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筆者は、③や、オルガン風のフェルマータを挾んで、ためらいがちに示される2度下降の『呼び掛けるような』モティーフ⑤aに、慎ましやかなフランクの性格を見る思いがする。

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