セザール・フランク(1822~1890) 交響曲 ニ短調

第2楽章 変ロ短調→変ロ長調 3/4 3部形式

緩徐楽章とスケルツォの性格を統合したもの。1) 緩徐部 → 2) スケルツォ → 3) 緩徐部+スケルツォの、3部分からなる。緩徐部は短調→長調と進むが、短調部の中心となるのはコールアングレに始まる⑥。

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これは冒頭に②aのXで示した箇所を含んだ《運命の動機》変容である。長調部は息の長い第2主題による祈り⑦。スケルツォ部は弦の3連符の刻み⑧によって新たな世界が導入されるが、付点リズムを特徴とする第3主題⑨に笑いや風刺はなく、ここにもフランクの真摯な性格が表れている。

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第3楽章 ニ長調 2/2 ソナタ形式

第1主題⑩《歓喜の動機》と金管によるコラール的な副次主題⑪《勝利の動機》によって、最初から楽章全体の晴れやかな性格が決定づけられる。

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「ベートーヴェンの〈第9〉と同様、既出の主題が回想されますが、単なる引用ではなく、新しい役柄を演じさせたかったのです」という発言の通り、第2楽章の⑥が副主題的に再現される。つまり循環主題②aを含んだ再現となるのだが、フィナーレでは、この⑥の悲劇的性格が強化され、第2楽章の哀歌よりも『立ちはだかる壁=アンチ・テーゼ』としてのネガティヴな要素が トゥッティで刻印される。

新出主題としては、低弦によって繰り返される⑫が重要。これはブルックナーの場合と同様、真摯なキリスト教徒が、純粋で素朴なるが故に、実社会で遭遇する苦難を示す主題で、⑩や⑪の『宗教的な法悦』に対する『世俗的な苦悩』で〈トリスタンとイゾルデ〉の影響を感じさせずにはおかない。

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一方、《信仰の動機》⑩や⑤aは、コーダに於いてハープの和音を挾みながら、浄化や救済を象徴するものとして、静かに変容再現され、宗教的な成就を導く。

そのコーダでは第1楽章で提示された下降音型⑤aの意味と象徴性が重要。これは、1886年に初演されたサン=サーンスの交響曲第3番⑤bを継承し、1905年初演のドビュッシーの〈海〉⑤bにバトンを渡すことになった。

〈海〉の第3楽章のコーダで再現される⑤bが、いかにも水の精『シレーヌ』が深海から呼びかけてくるような映像的イメージが強いのに対し、同じようにハープの分散和音に乗って再現されるこの⑤aは、より宗教的な色あいが濃い。このコーダこそはフランクの神髄であろう。

(金子建志)

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