19世紀後半に登場した巨人、ワーグナー。そのワーグナーの最後のオペラ《パルジファル》。ワーグナーは創作の中心をオペラにおいていた作曲家で、重厚長大なオペラを幾つも作曲していた。そのオペラ作曲家ワーグナーの最後のオペラである《パルジファル》は、その独特な世界観と相まってワーグナー音楽の神髄と言われることも多い。
後期のワーグナーは自らの作品をオペラではなく「楽劇」といった別の名前で読んだりしていた。《パルジファル》の場合は、「舞台神聖祝典劇」とちょっと仰々しい。ワーグナーは自らの作品のみを演奏する劇場をバイロイトに建設した。ここでは毎年夏になるとワーグナーのオペラのみ連続上演される音楽祭が開催される。ちょうどこの千葉フィルの演奏会が行われる本日も2015年度のバイロイト音楽祭が開催中なのだが(確か本日はティーレマン指揮による《ラインの黄金》の筈だ)、《パルジファル》は初演からしばらくの間はバイロイト以外では許可が下りず演奏できないという作品であった。《パルジファル》を聞くにはわざわざバイロイトまで足を運ばなくてはならなかったのである。
《パルジファル》のストーリーは極めてキリスト教的要素の強いもので、キリスト処刑の際、その脇腹を突いたと言われる「聖槍」(せいそう、と読む。槍の持ち主であるローマ兵の名を取って「ロンギヌスの槍」と呼ばれることもある)とキリストが最後の晩餐に使ったとされる「聖杯」(せいはい)を巡る、呪いと救済の物語。主人公パルジファルは「聖なる愚か者」という位置づけで、自分の名前も知らない。しかしその愚かさ故に純真で、呪いに苦しむ王を救済し、最後には自らが王となる。王となったパルジファルの頭上で舞う一匹の白い鳩。非常にシンボリックで、儀式的な作品でもある。ただ、ワーグナーがこの作品で意図したのは単純なキリスト教賛美ではなく、いささか複雑ものであったのだが。
呪いや救済といった、それまでのワーグナー作品での物語で使われたテーマが《パルジファル》でもまた使われ、ワーグナー作品の総決算という位置づけが強い。音楽的にはワーグナー音楽の神秘さ・荘厳さといった要素がクローズアップされているようである。ワーグナーは《パルジファル》完成の翌年である1883年にこの世を去った。この年、マーラーは23歳。その音楽的キャリアはまだ始まったばかりであった。