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弦と木管がユニゾンで奏する「聖餐の動機」①aで始まる。男性の修道僧が歌う聖歌を連想させる低い音域で荘厳に始まるこの①aが、トランペットやオーボエの高音域に上がって繰り返されると、高弦と木管が伴奏音型のように絡まっていく。この①b、ヴァイオリン+ヴィオラが4本の弦を上下する一般的なアルペジョなのに対し、木管は3連符と2連符が交替しながら進む不規則なリズム音型。ワーグナーは「神性=三位一体」を意味する「3」に、現世的な「2」「4」を絡めることで、キリストからアムフォルタス王に繋がる信仰が、現世において巻き込まれる世俗的な受難や、原罪的な嘆きを象徴し、音響的には、ステンドグラスから差し込む淡い光を思わせる神秘的な光彩を作り出した。この波のように揺れる響きは、印象派を先取りしており、ドビュッシーやラヴェルに影響を与えた。
このパターンが2回繰り返された後、メンデルスゾーンが宗教改革300年祭に因んで作曲した交響曲第5番〈宗教改革〉(実質は〈2番〉、1832年初演)で、プロテンタントの象徴としてイデー・フィクス的に用いた 《ドレスデン・アーメン》②が奏される。《ドレスデン・アーメン》は17世紀頃からドレスデンの礼拝堂で用いられ始めた独特なアーメン。このことから、この楽劇が、バッハ、メンデルスゾーン、ワーグナーというプロテスタント的な宗教観、つまり、キリスト教本来の信仰のあり方を問い直すスタンスの作品であることが暗示される。この②は、聖堂の騎士達が崇める「聖杯グラール」の動機。
②が、更に奥の聖堂の扉を開いたような場面転換的な効果をもたらした後、金管が「信仰の動機」③aを繰り返す。
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