ドヴォルザーク 交響曲第8番の楽曲解説

vysoka 120x90ブラームスの〈2番〉やマーラーの〈3番〉のように、作曲家が大自然の情景から新たな刺激を受け、それが明朗な作品として実を結ぶ例がある。ヨーロッパでは6~8月の長い夏休みを風光明媚な避暑地で過ごすため、それが作曲家に新たなインスピレーションを与えるのだ。ドヴォルザークの場合はこの〈8番〉がそれに該る。かねてから避暑地として気に入っていたボヘミアのヴィソカーに別荘を建てたドヴォルザークは、1889年(48歳)の夏から秋にかけて作曲し11月8日にプラハで完成。翌90年2月2日、自らの指揮による同地での初演も大成功を収めた。

こうした成立事情を物語っているのが、主題の滑らかさとフレーズの長さだ。ベートーヴェンが〈エロイカ〉や〈運命〉で試みたような構造重視による強固な建築物としての交響曲の場合、主題は短い動機のようにしてある場合が多い。そのほうが他の主題と組み合わせて立体的に仕上げ易いからだ。一方、アリアのような息の長い旋律は、その都度フレーズの最後まで演奏させていたら、歌曲みたいになってしまいかねない。

しかしロマン派の中期以降、ブルックナーの〈7番〉のⅠ楽章のように、長大な主題を交響曲として成功させる作品が現れるようになった。ドヴォルザークでいうと、この〈8番〉がそうで、交響曲としては異例なほど息が長く美しく主題に溢れている。前作〈7番〉や、イデー・フィクス的な循環形式に拘った〈新世界〉に較べれば一目瞭然。そうした旋律美のせいもあって、初演以来、高い人気を保ち続け、今日に至っている。ここでは、そうした観点を中心にコメントしてみたい。

Ⅰ楽章 ト長調 4/4 ソナタ形式

冒頭でチェロを中心に奏される①は“息の長い主題を特徴とする交響曲”としての宣言そのもの。それにフルートが、鳥の囀りのような②で続き、ヴィソカーの環境音楽的な補填が終わると、リズミックな③が主部を導く。

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ヴィオラとチェロによる④aが主部の中心主題。④aは、冒頭の長大な①のxから発展した変奏に他ならないが、この④aが、以後、牧歌的な④b等に形を変えて主部の中心的な役割を担う。緩やかな序奏部とアレグロ主部を一元化させようというのはロマン派の作曲家達が様々な形で試みたことだが、ドヴォルザークはこの①~④aに、主題群的な性格を持たせることで達成した。⑤はブリッジ的な経過主題だが、こうした接続部にも対位法的な二重構造を与え、しかも歌や詩としての要素も織り込んだ道沿いの花園にしてしまうあたりが、職人芸。

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第2主題はロ短調の⑥が中心。宗教的なコラールの要素が強い⑦は、静かな祈りとして導入され、次第に激しい願望へと強まっていく。

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展開部は①の再現に始まり、フーガ的な④c、低音群による重厚な④dのように、第1主題群を自在に組み合わせながら進み、定型どおりトランペットによる①が再現部を導く。

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