ドヴォルザーク 交響曲第9番 〈新世界より〉 の楽曲解説

Ⅱ楽章 変ニ長調 4/4 三部形式 

ドヴォルザークは、同時代の国民楽派の作曲家と同様、民族性を強調する手法として5音音階⑨を使った。7音の一般的な全音階から第4音(ファ)と第7音(シ)を抜くために『4・7抜き音階』とも呼ばれるこの音階は、ボヘミア、アメリカ、スコットランド等、民謡に広く使われている。ニューヨーク時代に作曲した弦楽四重奏曲〈アメリカ〉のⅠ楽章もそうだが、その主題を聴いた人が、国籍を問わず、自分の故郷を思い出すような効果がある。

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我が国では〈家路〉として歌われる第1主題⑩aも同様で、農村の素朴な夕べの祈りが目に浮かぶ。しかし、この⑩a、厳密にいうと純粋な5音音階ではない。シが何回も繰り返されるからだ。但し「シ→ド」と半音上昇する導音的な使用は意識的に避け、常に「シ→ラ」という下降音型にすることで、5音音階に聴こえるように工夫していることが判る。唯一、導音的な可能性があるのは最後の☆だが、ここを「シ→ド」ではなく「ラ→ド」にすることで、五音音階的な印象を確保している。

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この⑩a、イングリッシュ・ホルンによる1回目(7小節~)、2回目(86小節~)は同じなのだが、3回目(101小節~)はE.ホルンから弦に受け継がれ、4回目(111小節~)は弦楽三重奏に絞られていく。その三重奏が弦の合奏に戻って締めくくられる⑩bの最後☆で、唯一「シ→ド」という導音進行が使われるのだ。派手な技ではないが、知的な作曲家としての工夫が窺われる。

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このラルゴ楽章は米国の詩人ロングフェローが、インディアン神話の英雄ハイアワサを扱った物語の「森の葬式」から霊感を得て作曲されたという。そのため、中間部はオーボエ他が新出主題でエレジックな短調の世界を導いた後、⑪がクラリネット→ヴァイオリンと受け継がれて、追悼的な嘆きが一段と深まる。その嘆きを木管による⑫が陽転させた後、トロンボーンによるイデー・フィクス④aにトランペットの⑩aが重なって壮大な頂点が築かれる。このヒロイックな高揚の後,弦が⑩aを再現するあたりからは〈レクィエム〉的になるため、唯一の導音進行⑩b☆は昇天を暗示しているかのように聞こえる。コーダを締め括るコントラバスの変ニ長調の和音は、その静謐な祈りを残照のように受け継ぐ。

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