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Ⅳ楽章 ホ短調 4/4 ソナタ形式
この序奏部を『蒸気機関車マニアのドヴォルザークが描いた、SLの発車』とする指摘がある。暇があれば時刻表を携えて駅に出かけて行った等、様々なエピソードも知られているが、これは個人の趣味というよりは、チェコという国が優秀な蒸気機関車を製造してきたSL大国だった、という観点からも見るほうが良いようだ。
インディアン達が「鉄の馬」と呼んで恐れた蒸気機関車は、西部開拓史の象徴であり、“アメリカ音楽の創立”を依頼されて海を渡ったドヴォルザークにとって、SLは「新世界」の象徴であると同時に、祖国を誇らしげに思い浮かべることのできる重層的なシンボルだった。そのことを踏まえて第1主題⑰aを聴くと、更にヒロイックで“格好いい”音楽に感じられる。⑱は石炭を目一杯に炊いて疾駆するSLの動輪のイメージか。
⑰bの悲壮感は、絵空事ではない実在感に満ちているが、オーストリアの支配下に置かれていたチェコの出身者だからこそ、先住民族としてのインディアンや、黒人奴隷の悲劇、チェコから移民したスピルヴィルの同胞の苦労も、上から目線ではなく実感できたのであろう。
全曲で1回だけ弱音で叩かれるシンバルが新たな広野を導き、クラリネットによる第2主題⑲aに、チェロ⑲bが間の手を入れながら進む。民族的な土臭さの代表は⑳。リズミックな音型㉑の反復の後、ヴィオラが㉒を繰り返しながら先導して長大な上り坂を形成。⑰aがトゥッティで奏され再現部を導く。
以下、既出主題をライトモティーフのように絡めた再現部の後、ホルン群のソリがコーダを導き、壮大に結ばれる。最終和音を管だけが長大に引き延ばして終わるエンディングは、ワーグナーの〈ニーベルンクの指輪〉へのオマージュか。