マーラー 交響曲第5番の楽曲解説

第5楽章(第Ⅲ部) ロンド-フィナーレ ニ長調 2/2

夜を過ごした恋人達に、ホルン㉑が夜明を告げる。やや大袈裟に感じるが、これは旧約聖書の「過ぎ越し」「出エジプト」に繋げようとしたからでは。㉑後半のファゴット、㉒a、㉓と続く断片的な主題呈示は、ベートーヴェンの〈大フーガ〉Op133が原型で、〈9番〉の第3楽章〈ブルレスケ〉へと繋がる。

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コミカルな導入部の最後にオーボエが吹く㉔を受け、ホルンの先導で主部㉕「アレグロ・ジオコーソ・フリッシュ(活きいきと、陽気におどけて、新鮮に)」に突入。導入部の陽気さを受け継ぐ㉖の後半に、ロバ等の嘶きを入れるあたりはマーラーらしい。

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チェロに始まるフーガ㉗は、様々な部族が列を成して次々とナイルに向うエクソダスの大行進が重なり合う。㉘や㉙も快活で力強い。こうした行進曲調の中に優雅な《アダージェット》㉚が何度か再現され、第4・第5楽章が結びつけられる。

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この明るいフィナーレの原型は〈ジークフリート〉の終景か。眠りから覚めたブリュンヒルデによる「最高の愛の喜びに荒々しく笑い出しつつ」、ジークフリートの「ブリュンヒルデは笑っている! 我々を照らす昼に祝福を、太陽に祝福を! 夜に代わる光りに祝福を!」という言葉と照応する。天上から光りが指す㉛もフレスコ画風だ。怒涛のような進軍が到達するコーダは第2楽章のそれを再現するコラールとなり、㉒aを拡大した㉒bが壮大な頂点を築いて結ばれる。

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〈エロイカ〉の第1楽章の再現部で、ベートーヴェンは1番ホルンだけを9小節間(412小節~)のソロのために、ES管からF管に変更。ナチュラル・ホルンの時代だから、奏者は、長さの違う円管部(クルック)を差し替える時間が必要なので、371からの41小節間、1番は休符化。「テンポから概算すれば、40秒ぐらいあれば差し替え可能」という情報を得た上で、最先端のスコアを書いたことになる。その結果としてのヘ長調への転調とホルンのソロは素晴らしく効果的だ。

〈エロイカ〉の初演が1804年、そしてマーラーの〈5番〉の初演が1904年。つまり、ヴァルブ無しのホルンやトランペットの時代から、音の制限抜きに吹ける時代に入るまでにちょうど100年かかったことになる。第2楽章のコラールの予告は、スケルツォやフィナーレで実現し、第5楽章のコーダではベートーヴェンの〈第九〉やブラームスの〈2番〉と同じ、エリージウム(天上界)の調性ニ長調に到達。アルマとの愛の讃歌は、新時代を切り拓いてきた先人達のバトンを受け継いだ創造的天才の凱歌として、輝かしく閉じられる。

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