作曲はスメタナ50歳の1874年~79年。先にI~IIIの3曲が初演され、全6曲の初演は、1882年11月5日アドルフ・チェヒの指揮でおこなわれた。大成功だったが、耳の病いに冒されていたスメタナは、もはや聴くことは出来なかった。曲は、初演の街プラハ市に捧げられており、毎年、スメタナの命日5月12日に国際的音楽祭「プラハの春」の初日を飾って全曲が演奏される。概要は別稿のとおりなので、ここではその補足と、楽曲分析を中心にコメントしていく。
第1曲 《ヴィシェフラド》
チェコ建国の女神リプシェと、夫プシェミスル王の玉座があったとされるモルダウ河畔のヴィシェフラドは、国家的功労者の墓地にもなっている。そのため、この象徴的な城跡をテーマに描くということは、チェコの歴史を俯瞰することに他ならない。ちなみに、スメタナもドヴォルザークも同地に眠っている。
オープニングとなるハープ2台によるカデンツァは、竪琴を手に語るミンストレル(吟遊詩人)をイメージしたもので、その冒頭①a「ヴィシェフラド」のXが全6曲を統一する循環主題となる。Xはベルリオーズの〈幻想交響曲〉のイデー・フィクスのように様々に形を変えて登場するが、その自由な変容は交響詩の創始者リストに近い。曲は、この①a=Xを中心に、チェコ伝説の予言者=吟遊詩人ルミールが、竪琴を爪弾きながらヴィシェフラドの歴史を回想するような形で進められていく。
①aがオケに受け継がれた後、②とファンファーレ風の③が加わる序奏部では、神話的な建国の時代から、プラハがヨーロッパ文化の中心地として輝くに至るまでの栄光の歴史が、壮麗に描かれる。
アレグロ主部①bは、Xを含む①aの変奏で、外敵との戦乱が始まったことを表す。勇壮な騎士の進軍を思わせる④は②の変容。戦乱を嘆くエレジックな⑤にも、勇壮な④が絡む。
この戦禍は①aを拡大した長大なマーチ風の凱歌①cに到達して勝利を収めたかに見えるが、シンバルの一撃で戦況は逆転。城は崩壊しクラリネットが①cを短調化した哀歌を奏して消えるように閉じられる。
現実的にはここから、チェコの苦難の歴史が始まったことになるのだが、曲としては、ハープの竪琴と共に序奏部が再現されて明るさが戻り、昔話集の裏表紙を閉じるようなエピローグとなる。