第3曲 《シャールカ》
女性だけの好戦的な種族の伝説に基づいたエピソード。弓を引くのに邪魔な乳房を切り取ったということから「ア(無し)」+「マゾン(乳房)」と名付けられた種族の伝説は、チェコにも存在し、プラハ空港の近くに、チェコのアマゾン族の城跡といわれる場所があり、そこの巨岩はシャールカ岩と呼ばれているという。同時代的には、ゼイエル(1841~1901)の戯曲によって、この伝説が新たに脚光を浴び、ヤナーチェクやフィビヒがオペラを書いている。スメタナは「恋人の不貞に怒って、全ての男性に復讐を誓った処女」という説明に始まる大まかなコメントしか残していないが、物語と音楽の関係は、以下のとおりだ。
曲はアマゾネスの司令官の一人シャールカの⑫「復讐」を表す嵐のような音楽で始まった後、女族成敗にやってきた部隊を表す行進曲風の⑬「ツチラドの部隊」に移行。シャールカは身体を樹に縛りつけて⑭「泣き声(クラリネット)」を上げ、その美しさに魅せられた部隊長のツチラドは縄を解く。⑮「ツチラド」の求愛(チェロ)と、それに応えるシャールカとの⑯「愛の場面」がオペラの二重唱のような頂点を築いた後、男達はシャールカが仕込んでおいた酒で⑰「酒盛り」を始め、泥酔したあげく眠りこけてしまう。その様子を見届けたシャールカは角笛を吹いて仲間に攻撃の合図を送る。
スメタナは、酔い潰れていく様子をまずオーボエによる、あくびで描写。更に⑱「いびきと攻撃の合図」のように鼾をファゴットの重低音で、合図をホルンでリアルに描写する。⑲は、押し殺した声でアマゾン軍を誘導するシャールカ。⑳「襲撃開始」から(21)「突撃」へと続き、男たちは皆殺しにされてしまう。
戯曲では「シャールカがツチラドの火葬用の薪の上に跳び込んで、自ら犯した行為の償いをする」というロマン的な結末が用意されているのに対し、スメタナは全員が虐殺された場面で終わりにしている。娯楽的な劇音楽として聴くなら、ヴィジュアルな展開を追いかけ、ホラー映画的な皆殺しの修羅場に興奮して終るということで、何の問題も無いのだが、筆者は、スメタナが敢えて突き放したような結末にした意図を読み取るべきだと思っている。ドヴォルジャークの交響詩と同様、民話の残酷さは引喩の深部に何を見るかが重要だ。