今回のようにコンサートで抜粋演奏をする場合、バレエ全曲版のスコアから筋書き順にピックアップして並べていけば良さそうに思えるが、そう簡単にはいかない。別稿にもあるように、組曲は離れた場面の音楽をつなぎ合わせて1曲にしていることがあるからだ。しかも、一般ファンがCMで人気になった《モンタギュー家とキャピュレット家》をCDで楽しもうとすると、組曲版で録音された盤を買うことになる。もう一つの人気ナンバー《タイボルトの死》も同様なのだが、そうした組曲版CDで憶えたファンが、全曲版から抜粋した該当場面の音楽を聴いた場合、盛り上がったところで音楽が中断したり、別の場面の音楽に飛んでしまったりということで、楽しみが半減ということになりかねない。
それだけ組曲版が音楽として上手く纏められているということなのだが、3つの組曲は、それぞれ独立しているので、今回は、物語としての流れに合わせて順番を組み替えることにした。
1 前奏曲(全曲版より)
若い二人の愛を凝縮した詩情豊かな前奏曲。組曲には含まれていないので、今回、唯一、全曲版から採り入れた。①「愛」、②「優しいジュリエット」、③「雄々しいロメオ」の順に提示される三つの主要主題は、二人が絡む場面で何度も登場する。
2 モンタギュー家とキャピュレット家(第2組曲の第1曲)
クレッシェンドして威嚇するようなトゥッティの不協和音に達する2回の大波は、ヴェローナの大公エスカラスの主題。街頭での両家の小競り合いが決闘も交えた騒乱になりかかったとき警鐘と共に現れ、「今後、平和を乱す者は死刑に処す」と宣言する。
プロコフィエフは不協和音を絶壁的に断ち切った後、ロ短調の和音がpppで身をすくませたように残る絶妙なオーケストレーションを施している。この領主の描き方は、原作よりも遥かに威圧的で、帰国した祖国ソヴィエトでプロコフィエフを待っていたスターリンの恐怖政治を投影しているという見方は的を射ているだろう。
弦による④「騎士たちの踊り」とホルンが居丈高に咆哮する⑤「決闘」の間に、フルートによる楚々とした⑥「ジュリエットの踊り」が象徴的な対比をみせる。
筋書きどおりなら、もう少し後で演奏すべきなのだが、この悲劇の根底に、諍いに対して何ら有効な策も打たず、極刑で脅すだけという無策な支配体制があるのは明らかなので、象徴的な意味合いを籠めて第2の前奏曲としてここに置いた。
3 情景(街の目覚め) (第1組曲-2)
ファゴットのソロが、平穏なヴェローナの夜明けを描く。
4 少女ジュリエット(第2組曲-2)
十代前半の娘らしく活発に飛び跳ねる様子⑦「少女ジュリエット」で始まり、女性的な優雅さは②で。フルートによる⑧「恋への憧れと不安」から、曲はより内面へと入り、チェロとサクソフォーンのソロが、その予感を繊細に歌い上げる。
ジュリエットは12歳。当時は早婚で、原作では母キャピュレット夫人がジュリエットに「私がお前の年頃には、お前という子を生んでおりました」という台詞があり、年頃だから、といって夜会に招待してあるパリスとの婚姻を勧める。