拍子が、初めて9/8に変わる中央部の⑨が「さあ斧でいっぱつくわせるんだ」に相当する頂点。9拍子は[3+3+3]の三位一体的な構造が普通だが、ここでは[2+2+2+3]。つまり基本リズム[(2/4+3/8)]の頭に、1/4拍子を加えた形で、変拍子の攻撃性が維持されたまま拡大する。
更に重要なのは、そこまで継続してきた『蛇』の音型が⑨の直前で一旦、途切れること。但しレヴェルタスは、この16分音符の蛇行を『聴こえるように』とは考えておらず、途中でクラやフルートの低音を加えても、音量は p や pp のまま。つまり、その間も吹き続けるバス・クラに『多少は楽をさせよう』という意図としか考えられないのだ。
トゥッティによるヒステリックな9/8の「蛇を殺せ」⑨が一段落すると、拍子は基本形の7/8に戻り、『蛇』の音型も3小節目から、冒頭と同じバス・クラの pp で復帰する。こうしたあたりは怪獣映画と似たパターン。ゴジラが自衛隊による最初の一斉射撃で死なないのと同じだ。
人間達は、倍速い7/16拍子の⑩aで攻撃を再開。この⑩aはより鋭いが、1小節単位で、連続はしない。矢を放ったら、次の準備に時間が必要な弓矢みたいなイメージで、その1小節間、『蛇』の音型は休止するが、7/8に戻ると再び動き出し、⑩bのように7/16と7/8が交替する展開が続く。よくやるように、変拍子を、言葉に置き換えて説明すると「タケヤブヤケタ→タケヤブヤケタ」的な、このサイズ間の乗り換えで、演奏上の難易度とテンションは高まる。
この攻防が最高潮に達する⑪aでレヴェルタスは[8分の5拍子+1/2]という、当時としては再前衛の変拍子を使用。16分音符単位に換算すると⑪bになるこの手法、日本では戦後、三善晃の世代が使うことになる刺激的な書法を先取りしている。
この⑪aの間、沈黙していた『蛇』の音型は、7/8の基本拍子に戻ると再び復活するが、主要主題を総動員した長大なコーダの後、遂に途絶え、勝ち誇ったような金管のファンファーレとティンパニが狂騒の終わりを告げる。
私的な話で恐縮ですけれど、私は蛇に怖い思いをした経験がありません。田舎の納屋で隠れんぼをしていた子供の頃、青大将の巣をみつけた時のこと、相手は興奮する素振りも見せず、静かにこちらを見つめたままでした。
そのせいか、当時、愛読していた「ジャングル・ブック」の大蛇カーや「少年ケニア」のダーナといった冷静沈着な賢人としての大蛇に、親近感を懐くばかりで、敵対感を持ったことは皆無なのです。
この曲の練習をしていた6月の終わり頃、近所の畦道で久しぶりに青大将と遭遇。2m近い大物で、悠然と道を横切った後、しばらくこちらを眺め、姿を消しました(写真)。
そうした紳士的な相手にしか出逢ったことが無いせいか、この“蛇退治”の熱狂にはのめりこみ難いのです。一線を踏み越えるためには、毒蛇によって新妻を失ったオルフェオ、ジークフリートや八岐大蛇といった神話や伝説の世界を、インディー・ジョーンズの呪術的な場面に重ね合わせることで振ってみたいと思っています。
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