8)花咲く草原で 男性的な登山③aと、女性的なロ長調の甘美な陶酔。オペラにおける愛の場面に相当する。
9)山の牧場で 主調の変ホ長調に戻る。遠くで鳴るヘンデル・グロッケン(放牧する家畜に付けるカウベル)をバックに、鳥の噸りやヨーデルがこだまする。マーラーの〈6番〉や〈7番〉の牧歌的なシーンを思わせるが描写がリアルで、昼のイメージが強い。シュトラウスは管弦楽伴奏の歌曲でもカウベル用いている。
10)道に迷い、茂みや藪を通る 変ホ長調。急降下してくる鷲、もしくは牧童の笛を思わせる⑫aが場面転換となり、迷路⑬を中心としたポリフォニックな展開部に突入。最後になって視界が開け、再び山②が姿を現す。
11)氷河で 二短調。登山者③aは氷河⑭や岩壁④に挑む。
12)危険な瞬間 岩壁④から下降半音階で落ちかけ、チェロのソロで再び登る登山者③a。ロック・クライミングの緊迫した描写が続く。
13)頂上で へ長調→ハ長調。山頂⑮に到着。下界から聴こえる牧童の笛⑫bは⑫aの変容で、ブルックナーの〈5番〉の循環主題⑫cを思わせる。山頂に近づくと、突然視界が開けることがよくあるが、実際は最高点ではなく、本当の頂上はそこから尾根を少し登ったところにあることが多い。
小さい頃から山好きだったシュトラウスのリアリズムはこのあたりも的確で、先ず最初、へ長調の疑似山頂では、あっさりとした描写で安堵感を描いた後、ハ長調の本当の頂上では、山頂⑮山②に感動⑪aを重ね、更に、シンバルを加えた太陽①bによる全天空的なパノラマで駄目を押す。
14)幻 へ短調(長調)→変ロ短調。感動⑪aを中心に山頂⑮や太陽①bを交え、登頂に成功した満足感がシンフォニックに反芻される。オルガンのペダル音が加わった後、金管によって山②が変ロ短調で再現され、更に荘厳な頂点を築く。〈英雄の生涯〉や〈ツァラトストラ〉を踏襲したシュトラウス得意の中間点のクライマックスは、4千米を越える高峰が連なるヨーロッパアルプスの威容そのもので、巨大編成オケの醍醐味と言っても良いだろう。
15)霧が立ち昇る ⑯や変ロ短調の上昇音階が、立ち昇ってくる霧を描写。
16)太陽が次第に陰る 上昇音階の中、オルガンの高音とヴァイオリンによる太陽①bは次第に弱まる。