ギジェンの詩「センセマヤ」
《センセマヤ》は1937年に最初は室内楽の作品として、翌年の1938年にオーケストラ作品として作曲される。本日演奏するのはオーケストラ版で、多種多様な打楽器と多くの管楽器が要求される、極めて大規模な作品である。《センセマヤ》とは何か。これは、キューバ生まれの詩人ニコラス・ギジェン(1902-1989)の詩「センセマヤ 蛇を殺すための歌」のことで、最初の室内楽版の譜面にレブエルタスはギジェンのこの詩の一節を書き込んだ。ここで、ギジェンの詩「センセマヤ」の全編、を少し長くなるが紹介することにする。
センセマヤ 蛇を殺すための歌
マヨンベ ー ボンベ ー マヨンベ!
マヨンベ ー ボンベ ー マヨンベ!
マヨンベ ー ボンベ ー マヨンベ!
蛇の目はガラスの目、
そら蛇が来て棒に巻きつく、
ガラスの目をして、棒に巻きつく、
ガラスの目をして。
そら蛇が足もないのに歩いている、
蛇が隠れる、草のなか、
歩いて隠れる、草のなか、
足もないのに歩いている。
マヨンベ ー ボンベ ー マヨンベ!
マヨンベ ー ボンベ ー マヨンベ!
マヨンベ ー ボンベ ー マヨンベ!
さあ斧で一ぱつくらわせるんだ、
やっつけろ!
ふんづけるな、噛みつくぞ、
ふんづけるな、逃げ出すぞ!
:
(中略)
:
マヨンベ ー ボンベ ー マヨンベ!
センセマヤ、もう蛇が…
マヨンベ ー ボンベ ー マヨンベ!
センセマヤ、動かない…
マヨンベ ー ボンベ ー マヨンベ!
センセマヤ、もう蛇が、
マヨンベ ー ボンベ ー マヨンベ!
センセマヤ、死んじゃった!
(『世界現代詩集Ⅷ ギリェン詩集』羽出庭梟訳、飯塚書店、1974年、34-37ページから引用)
「マヨンベ、ボンベ、マヨンベ」は呪術の儀式の際に繰り返される言葉をギジェンが変形させたものらしい。呪術的な、おどろおどろしい内容の詩であるが、レブエルタスはこの詩をかなり忠実的に音楽化することを目指したようである。ギジェンの詩にある同じ詩句のリフレインは、同じ音形が延々と繰り返されることで再現されているようである。
呪術的なオスティナート。ロシアの農村の民俗的な祭りをモチーフとしたストラヴィンスキーの《春の祭典》(1913)の如く、レブエルタスの《センセマヤ》は原始的で凶暴な儀式を大規模なオーケストラで表現した作品となった。しかし、《春の祭典》はリズムが複雑に変化するのに対して、《センセマヤ》は7拍子という西洋クラシック音楽の定番からはいささか離れた拍子であるが、その拍子は基本的に変化することなく延々と続けられる。途中、他の要素が入ってきて拍子も変わるがさほど複雑なものではない。むしろ、単純なリズムの反復が執拗に繰り返され、それが強い印象を残す音楽となっている。