ショスタコーヴィチ 交響曲第7番〈レニングラード〉の楽曲解説

Ⅰ楽章─ハ長調 4/4 拡大されたソナタ形式

sym7 score 120pxハイドンやモーツァルトにも、展開部を新出主題による全く別の世界にする交響曲は存在する。このⅠ楽章は、その別世界的を異様なほど巨大化させたのが特徴だが、ソナタ形式の原理はほぼ確保されている。
冒頭の第1主題①をレニングラード音楽院時代の師シュテインベルクは「人間の主題」と呼んだ。全ての芸術を独ソ戦のために総動員させた政策を反映する“男性的で、人生を肯定する”この①は楽章内で何度も登場するだけでなく、Ⅳ楽章のコーダでも再現され交響曲全体を循環形式的に統一する。

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第2主題②は型どおり女性的で、牧歌的で平和な生活を暗示。オーボエが導入する第3主題③aは、そうした平穏な日々を送る民衆の素朴な祈り。2小節単位で〔2+3〕の5/2拍子となる。スラヴ民族に広く分布している5拍子を使うことによって、ロシアを表そうとしたのは明らかだ。フルートによる③bは、③aの後半を〔2+変拍子〕のように拡大することによって、より繊細な心情告白となる。

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ヴァイオリン・ソロの余情の中、2小節周期で同じリズム④繰り返す小太鼓が静かに展開部の開始を告げる。「戦争の主題」⑤による変奏曲の形を採ったこの長大な展開部がラヴェルの〈ボレロ〉を雛型にしているのは一目瞭然だが、『小太鼓によるオスティナート・リズム+だらだらと続くクレッシェンドの登り坂』という仕掛けは、意図的に原型としての〈ボレロ〉に気付かせることが狙い。フォーマットを意識させることで、パロディとしての展開が楽になり、ショスタコーヴィチが得意とした大道芸的なギャグが自在に使えるようになる。

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