マーラー  交響曲第7番 ホ短調 《夜の歌》

第4楽章 《夜の歌》 ヘ長調 2/4 3部形式

第2楽章と対になる2つ目の「ナハトムジーク」。前述のように、この楽章ではマンドリンとギターが使われるが、これらは室内や窓辺で「愛の歌」を伴奏するのに使われた楽器。例えばモーツァルトは、〈ドン・ジョヴァンニ〉で主人公がエルヴィーラを口説く窓辺の場面で、実際にマンドリンを使用している。

〈フィガロの結婚〉でケルビーノが《恋とはどんなものかしら》を歌うシーンでは、スザンナがギターで伴奏するのだが、これは弦のピチカートが、撥弦楽器ギターの音色を模している。シューマンは交響曲〈4番〉で、チェロとオーボエが奏でる第2楽章の草稿には「ギター」というメモが書かれていたが、シューマン・フリークのマーラーが知っていたか否かは不明。

歴史はともかく、この楽章で重要なのは、音響的な広がりが一気に狭められ、マンドリンやギターの音量に相応しいような狭い空間に、イメージを切り換えることにある。ヴァイオリンのソロを弦楽器群が伴奏する主題 ⑯ は、この楽章の顔に該り、〈展覧会の絵〉の《プロムナード》のように、楽器やリズムを変えて何度も登場する。これに続く ⑰ では、早速、ギター(最下段)が伴奏的に登場して、アット・ホーム的な空間を現出。

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主題として重要なのは ⑱。ホルン・ソロが“語り部”的に繰り返すのだが、父親が子供達に「昔むかし~」と話している場面のようなイメージで聴く事をお勧めしたい。お話の本体は、オーボエによる ⑲ のように、木管のソロが担当。第1ヴァイオリンが全員で奏する ⑳ は、テンポが緩むせいもあって家族全員で話を楽しんでいるような場面を思わせる。最初の「お話」が終了すると、⑯ がチェロ・ソロによって再現され、次の話に進む。コントラバスやコントラ・ファゴットの重低音による ㉑ は、“怖いお話”。

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マンドリンはホルンと連動する㉒のように、他の楽器と組合わせて使われることが多いが、音量の弱さを補うために、デュナミークが細かく指定されている(㉒ ではホルンがpなのにに対し下段のマンドリンは f )。今回の市川文化でも、それなりに聴こえるとは思うが、ミクロの音量自体がポイントなので、ジオラマ的な小宇宙を覗くような感覚で鑑賞して頂きたい。

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中間部でホルン+チェロが先導する ㉓ は、“楽しい休日”みたいなイメージで ㉑ と対峙。父マーラーが、妻アルマと共に娘に語りかける情景として聴くと、何とも微笑ましい。

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