Ⅳ楽章 ホ短調 3/4 シャコンヌ(パッサカリア)
既に述べた“レトロ嗜好”は、この楽章で、バッハやブクステフーデの時代に頂点を窮めた変奏曲形式「シャコンヌ」を用いたことで、更に鮮明になる。モーツァルトの〈きらきら星〉や、トルコ風ソナタのⅠ楽章のように、主題が上声部にあって、少しずつ衣装を変えていく『装飾変奏』とは違い、低音部や和声進行を主題とし、4または8小節周期で、料理法を変えていく『低音変奏』『性格変奏』と呼ばれる高度な変奏曲形式で、ブラームスは既に〈ハイドンの主題による変奏曲〉で実践済みだった。
〈ハイドン変奏曲〉での5小節周期という前衛指向を、伝統的な8小節周期に戻す代わりに、『提示部→展開部→再現部→コーダ』というソナタ形式の構造を盛り込んだのが新機軸。主題を憶えさせるために上声部の ⑫ を旋律線とした。
その際の工夫として見逃してならないのは、〈1番〉がそうだったように、トロンボーンを本来の“神託を告げるラッパ”としての役割に戻して、Ⅳ楽章だけに使用したこと。トロンボーンは冒頭から ⑫ を吹くのだが、〈1番〉とは真逆の、最後の審判を告げる“断罪のラッパ”のイメージで、それが楽章全体の黙示録的な性格を決定づける。
第4変奏 ⑬ から続くハンガリー・ジプシー的な嘆きが、前半部の悲劇性を刻印。3/2拍子に転じたフルートによる長大なソロ ⑭ がエレジックな提示部を締めくくる。
ホ長調に転じた展開部ではトロンボーンのコラール ⑮ が天上に導くかのように思わせるが、⑫ の強奏が夢を断絶。3/4に戻った再現部(第16変奏)からは、再び地獄堕ちの螺旋階段が始まる。「運命主題」の3連符が畳みかける第24・25変奏が劇的な頂点を築いた後、ピウ・アレグロ(第31変奏)のコーダに突入。トロンボーンが断罪的に咆哮する第33変奏を経て、断ち切るように結ばれる。