曲目解説

演奏会プログラムの曲目解説からの抜粋です。

マーラー 交響曲第5番の楽曲解説

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マーラーはこの〈5番〉でも、楽章をより巨きなスパンで捉える「部=Abteilung」を、以下のように採用した。

「Ⅰ部」=Ⅰ楽章「葬送行進曲」・Ⅱ楽章 
「Ⅱ部」=Ⅲ楽章 スケルツォ 
「Ⅲ部」=Ⅳ楽章 アダージェット Ⅴ楽章 ロンド・フィナーレ

第1楽章(第Ⅰ部) 嬰ハ短調 2/2 三部形式

トランペットのソロ①に始まるこの楽章は、マーラー自身によって「葬送行進曲」と題されている。〈巨人〉の第3楽章、〈復活〉や〈3番〉の第1楽章よりも「厳格な歩調で」と指定されたぶん、柩を担いで教会に向う荘厳な葬列を連想させる。②のアウフタクトとして使われている付点リズムは、ベートーヴェンやショパンとの繋がりを指摘するまでもなく「葬送」のそれだ。それ以上に瓜二つなのが、メンデルスゾーンのピアノ曲集〈無言歌〉の中の1曲〈葬送〉 Op62-3。以前オーケストレーションし、〈復活〉のプレトークで演奏した際に、詳しく述べたとおりである。

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ベートーヴェン《レオノーレ》序曲第3番の楽曲解説

beethoven jm 120pxベートーヴェンは、唯一のオペラ〈フィデリオ〉のために、〈レオノーレ序曲〉とされる3曲と、全く別のプランによって最後に作曲された〈フィデリオ〉序曲の4曲を作曲した。その中で最も規模の大きなのが、この〈3番〉。物語全体を交響詩的に圧縮しているという点はゲーテの戯曲に付曲した〈エグモント〉の序曲と同じで「序奏部→アレグロ主部→快速のコーダ」という構成も共通だが、〈エグモント〉がへ短調→ヘ長調という、『運命型』の短調→長調という『暗→明』の図式によっているのに対し、レオノーレ〈3番〉は、ハ長調で一貫している。

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マーラー 交響曲第5番 嬰ハ短調

オリジナルの交響曲第5番は?

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指揮者として活躍していたマーラーは、指揮の仕事がオフシーズンとなる夏の間に別荘にこもり、そこで集中的に作曲をするというスタイルをとっていた。交響曲第5番も、そういったスタイルで手がけられている。1901年の夏に作曲を開始し、翌1902年の夏に完成。マーラーが親しい知人に語った内容からすると、1901年夏の段階ではこの時点では4楽章構成で、その第3楽章まで書き進められていた。ではなぜ、楽章が一つ増えたのか。それは、マーラーの人生において最も大きな出会いの結果だった。アルマである。マーラーは1901年11月、アルマ・シントラーという女性と出会い、そこからすぐに恋に落ちる。12月の末には婚約を発表、翌1902年3月にウィーンの教会で結婚式を挙げる。電撃婚だった。1901年の夏と1902年の夏の間に、マーラーの人生に決定的な転機が訪れているのだ。そして、この交響曲の第4楽章。この第4楽章は、マーラーと親しく交友を結んだ指揮者ウィレム・メンゲルベルクによると、この楽章はマーラーがアルマへの愛情を込めて作曲された音楽でプロポーズに相当するものだった、アルマはそれを受け入れてマーラーの元に来たのだ、と。メンゲルベルクはこれをマーラーとアルマの両方から聞いたらしく、そうなると信憑性は高い。

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ワーグナー《トリスタンとイゾルデ》より

トリスタン伝説とワーグナー

tristan and isolde 120px 《トリスタンとイゾルデ》はケルト起源の伝説に基づいている。ローマ帝国の時代からスコットランド辺りで活動していたピクト人はケルト系ともされるが、実態は不明。このピクト人の年代記に登場するドゥルストという名前が、トリスタンという名前の原型と推測されている。ドゥルストとは嵐や喧騒を意味し、ドゥロスタンという名前にも変化している。この名前はウェールズに渡るとドリスタン、トリスタンとなり、フランス語の悲しみを意味する言葉「トリステス」と結びつき、物語性を想起させる名前となっていく。

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ベートーヴェン《レオノーレ》序曲第3番

流行りに乗るベートーヴェン

beethoven 120px 《レオノーレ》序曲第3番はベートーヴェン唯一のオペラの序曲のために作曲された音楽で、このオペラ《フィデリオ》の物語は、16世紀スペインを舞台としたもの。無実の罪で2年もの間に渡って牢獄に囚われているフロレスタン。妻のレオノーレは男装しフィデリオと名乗り、果敢にも夫の救出に向かう。この高潔な、かつ高らかに夫婦愛が称えられるオペラはいかにも理想主義者ベートーヴェンに相応しく、かつ、娯楽としての性格を大きくもつオペラというジャンルとベートーヴェンとの、なんとも言えないずれが語られてきた。これはこれで間違いではないのだが、ベートーヴェンがこのオペラを作曲する経緯を事細かに見ていくと、もうちょっと違った風景も見えてくる。

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