曲目解説

演奏会プログラムの曲目解説からの抜粋です。

ドヴォルザーク 交響曲第9番 〈新世界より〉 の楽曲解説

dvorak02 thumbドヴォルザークは〈8番〉で、ベートーヴェンが基本型を築いたロマン派的な交響曲の様式を押し進めようとする。その結果、フィナーレは〈エロイカ〉を発展させた重厚な変奏曲になったが、全楽章を循環形式的に統一するまでには至らなかった。そこで雛型にしたのが〈幻想交響曲〉。同じような問題意識から壁を乗り越えようとしていたチャイコフスキーは1888年に〈5番〉を初演。そこでは〈幻想〉のイデー・フィクス(固定観念)、つまり中心主題が全楽章に登場することで、全体を連鎖のように結びつける手法が見事な成果をあげていた。

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コープランド 交響曲第3番の楽曲解説

copland02 thumb〈新世界〉で書いたように、ドヴォルザークは5音音階や逆付点リズムで民族性を強調しようとした。これが難しいのは、例えば5音音階だと、黒鍵を適当に叩けば、誰にでも聴き易い旋律が簡単にできてしまうこと。純粋な5音音階には〈メダカの学校〉や〈猫ふんじゃった〉があるが、ああした旋律だけを並べると、親しみ易くても交響曲としては幼稚な印象を与えかねない。

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「ドイツ音楽」から「チェコ音楽」、そして「アメリカ音楽」へ

国民楽派、ドヴォルザーク

dvorak01 thumbアメリカ合衆国はヨーロッパからの移民で形成された国家である。そのため、独立してからもしばらくの間は、そのルーツと規範をヨーロッパに求めた時代があった。南北戦争も終わり、本格的に国家統合を果たし社会を建設していこうという中で、ヨーロッパの著名人をアメリカ合衆国に招き、アメリカ国内における諸々のレベルを上げていく。クラシック音楽において、その役割を担った人物で最も著名なのは、アントニン・ドヴォルザークであろう。

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ショスタコーヴィチ 交響曲第7番〈レニングラード〉の楽曲解説

Ⅰ楽章─ハ長調 4/4 拡大されたソナタ形式

sym7 score 120pxハイドンやモーツァルトにも、展開部を新出主題による全く別の世界にする交響曲は存在する。このⅠ楽章は、その別世界的を異様なほど巨大化させたのが特徴だが、ソナタ形式の原理はほぼ確保されている。
冒頭の第1主題①をレニングラード音楽院時代の師シュテインベルクは「人間の主題」と呼んだ。全ての芸術を独ソ戦のために総動員させた政策を反映する“男性的で、人生を肯定する”この①は楽章内で何度も登場するだけでなく、Ⅳ楽章のコーダでも再現され交響曲全体を循環形式的に統一する。

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ショスタコーヴィチ (1906~1975) 交響曲第7番〈レニングラード〉

その交響曲は誰がために

shostakovich 120px「心配することはない。私がいないと始まらないのだから!」その日、コンサート会場の前は混雑でごった返していた。その日の演奏会のチケットは完売だったが、諦めきれない人々が大勢押し寄せ、ちょっとした混乱状態に陥っていた。チケットを持っていた人でもコンサート会場の入り口に辿り着けず、そんな人の声を聞いての言葉だったのだろう。そのルーマニア訛りのドイツ語を耳にして、人々はその声の主を見た。そこにいたのはセルジゥ・チェリビダッケ。本日の演奏会の指揮者である。混乱は治まり、人々は指揮者の為に道をあけ、チェリビダッケはコンサート会場の中に消えていった。そして定刻より少し遅れ、演奏会が始まった。その日の演奏会はベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の特別演奏会、指揮者はセルジゥ・チェリビダッケ。曲はソ連の作曲家ドミトリー・ショスタコーヴィチがつい5年前に完成させた交響曲第7番であった。その交響曲を、人々は捧げられた街の名を取って《レニングラード》と呼んでいた。

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チャイコフスキー 大序曲〈1812年〉の楽曲解説

napoleons retreat 120px序奏部ラルゴ3/4拍子の冒頭、チェロ4人+ヴィオラ2人の重奏で室内楽的に奏される①は、ロシア正教会の讃美歌〈主よ、汝の民を救いたまえ〉。ナポレオン軍が攻めてきた頃のロシアには後述のように近代的な意味での国歌は存在しなかった。ロシアでそれに相当するのはムソルグスキーが〈ボリス・ゴドゥノフ〉の戴冠の場で、民衆が「皇帝に栄光あれ!」と歌う合唱に用いた伝承の旋律(一般的には〈皇帝讃歌〉として知られる)と、この①だ。①はプロコフィエフが16世紀に絶対君主として君臨したイワンⅣ世を描いた映画音楽〈イワン雷帝〉でも、恐怖政治の象徴だった王直属の親衛隊を描いた場面《オプリーニチキの合唱》で、威圧的な親衛隊の合唱に対して民衆の願いを代弁するかのよう繰り返される。

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