曲目解説

演奏会プログラムの曲目解説からの抜粋です。

ドヴォルザーク (1841~1904) 交響曲第8番 ト長調 作品88

チェコ音楽における民族性とは?

dvorak 120x14919世紀後半のボヘミア地方において、チェコ人としての民族意識をいちはやく取り入れて作曲活動をしたのがベドジルハ・スメタナ(1824~1884)。当時のボヘミア地方はオーストリアのハプスブルク家に支配されており、チェコ語も公用語としての地位を与えられていなかった時代である。《我が祖国》(1874~1879)はスメタナの民族意識が最も高い次元で結実した傑作であるが、スメタナの創作の中心は交響詩と歌劇であった。この時代、交響詩はリストが創始したばかりの極めて新しいジャンルであり、文学的な標題を持つために音楽以外の意味付けが比較的容易であった。それに比べると、基本的に純音楽としてあった交響曲というジャンルに、音楽以外の何かを込めることは非常に難しい。ドヴォルザークは1841年生まれ、スメタナよりも一世代後の作曲家であったが、ドヴォルザークが創作の中心に選んだのは交響曲であった。

続きを読む

レブエルタス (1899~1940) 《センセマヤ》

メキシコ革命前後のメキシコのクラシック音楽界

revueltas 120x13616世紀初頭のコルテスによるアステカ帝国の征服後、メキシコはスペイン人が支配する土地となったが19世紀になって独立を果たす。キリスト教布教の為に沢山の宣教師達がメキシコに赴いたこともあり、ヨーロッパのクラシック音楽もメキシコで独自の発展を遂げる。だがそこに「メキシコらしさ」というものが現れるには20世紀迄待たねばならなかった。1910年、当時のメキシコを支配していた独裁者ディアスに対しての抗議行動が巻き起こる。メキシコ革命の始まりであった。激しい内戦も行われたが1920年には一応収束し、そして新しい社会と国家の建設に向けて動き出していく。そこで必要とされたのは、メキシコ人としての民族意識であった。

続きを読む

サン=サーンス (1835~1921) 交響曲第3番 《オルガン付き》 の楽曲解説

昨夏、〈復活〉の前に、死の象徴としてのグレゴリオ聖歌「ディエス・イレ=怒りの日」①aのサンプル演奏をした際、意外に気付かれていないのがシューベルトの〈未完成〉(1822年作曲→65年ウィーンで初演)の第1楽章①bだと判明した。サン=サーンスが、この〈3番〉(1880~86年→86年ロンドンで初演)で、それを16分音符・1拍分ずらして①c主題化した際、〈未完成〉を全く意識することなく『偶然、似てしまった』と考えるのは無理があろう。

 

続きを読む

ベルリオーズ(1803~1869) 序曲 《海賊》 の楽曲解説

berlioz 120x154今の時代、この「海賊」を素朴に標題に結びつけて鑑賞しようとするなら、一番近いのは映画「カリブの海賊」ではないだろうか。そうした快男児的な海賊のルーツの一人が、19世紀初期にメキシコ湾で活動した実在の海賊ジャン・ラフィット(仏・1782- 1826年?)。ハイチ革命の最中、フランス人に対する迫害と暴力から逃れるために海賊になったとされる。

続きを読む

サン=サーンス (1835~1921) 交響曲第3番 《オルガン付き》

トロカデロ宮殿のオルガン

saint saens 120x171名前の通りオルガン付きの交響曲、である。ここでいうオルガンとはパイプオルガンのこと。建物と一体化した極めて大規模な楽器で、ヨーロッパでは教会に備え付けられることが多く、教会音楽で頻繁に使われてきた楽器である。であれば、この《オルガン付き》も教会での演奏が念頭に置かれたものかというと、そうでもない。コンサート・ホールにオルガンが備え付けられるようになる流れの中でこの交響曲は作曲されている。

続きを読む

関連記事